夕方、真希は洗濯物を畳みながら、キッチンのタイマーが鳴るのを待っていた。

仕事を終えて帰宅し、小学校に上がったばかりの息子の宿題を見ながら家事を済ませる。それだけで1日が終わる毎日にも、徐々に慣れつつあった。

スマホが震えたのは、漢字ドリルに飽きた息子が、鉛筆を転がして遊び始めたころだった。画面には、隣県で1人暮らしをしている母・美津子の名前が表示されている。

「もしもし、母さん?」

「真希、今ちょっと大丈夫?」

いつもより少し低い母の声に、真希は畳みかけていたシャツを膝に置き、背筋を伸ばした。

「大丈夫。どうしたの?」

「今度の連休って、どこかで時間あるかしらと思って」

控えめで遠回しな言い方だった。だが、母が用もなく予定を聞いてくることは少ない。真希は胸の奥に、一抹の不安を覚えた。

「まだ決めてないけど……何かあった?」

「ちょっと腰がね。前から痛むことはあったんだけど、ごまかしごまかしやってるうちに、ここ何日か、買い物に出るのがしんどくなってきて」

「そんなに悪いの? 病院は行った?」

「行ったわよ。薬と湿布をもらって……ただ、重いものがね。お米とか洗剤とか、そろそろ切れそうで。悪いんだけど、連休のどこかで来てもらって、買い物だけお願いできないかな」

電話の向こうで困ったように笑う母は、どこか気まずそうだった。母がこんなふうに頼みごとをするのは珍しい、と真希は思った。

「じゃあ、連休前半のどこかで行くよ。必要なもの、メモしておいて」

「悪いわね。真希も忙しいのにね」

その言葉に、真希の胸はちくりと痛んだ。

今年の正月は、遠方にある夫の実家に顔を出していて、帰省できなかった。母は「無理しなくていい」と言ってくれたが、結局、それきりになっていた。

「正月も帰れなかったし、ちょうどいいよ」

「そう? じゃあ、顔を見られるのを楽しみにしてるわね」

通話を終えると、息子が待ち構えていたように顔を上げた。

「ママ、ばあばの家、行くの?」

「うん。ゴールデンウイークに、お買い物を手伝いに行くよ。ばあば、ちょっと腰が痛いんだって」

「ぼくも行く?」

「もちろん。一緒に行こう」

息子はすぐに表情を明るくし、「何のゲーム持って行こうかな」とつぶやいた。真希は真希で、必要な荷物を頭の中で思い浮かべながら、畳んだ服を息子の引き出しへとしまった。