共有したかったかわいい姿
運動会から数日経っても、喜代子はまだ写真を見返していた。
莉乃が走る横顔、大きく手を振る姿、真剣に踊る顔。どれも見ているだけで心が温かくなる。ふと友人たちにも見てもらいたいという願望が顔を出した。
「あ、そうだ」
昼食の片づけを終えたあと、喜代子はソファに座り、スマホを開いた。SNSの投稿画面に、莉乃がよく写っている写真を数枚選ぶ。続けて短い文章を作成した。
「先日、孫の運動会に行ってきました。一生懸命走る姿に胸がいっぱいになりました」
投稿すると、すぐに反応があった。
「とってもかわいいです」
「お孫さん、もうこんなに大きくなったのね」
「見ているだけでも癒されます」
好意的なコメントに、喜代子は自然と口元をゆるめた。孫の可愛さを共有できたことで、満ち足りた気分が広がった。
ところが、その日の夕方、不意に里美から着信があった。最近は専らチャットでのやり取りが多く、約束もなしに電話がかかってくるのは珍しい。
「もしもし、里美さん?」
「お義母さん、SNSに莉乃の写真載せました?」
聞いたことのない硬い声だった。喜代子は反射的に姿勢を正した。
「ええ、運動会の写真を何枚か……どうしてそれを……」
「お義母さんって、SNSを実名でやっていますよね。だから人伝にアカウントが見つかって、そこに莉乃の写真が出てきたんです」
「そうだったの」
「どうして勝手に載せたんですか」
「勝手に、って……」
「私たちに相談もなく公開するのはやめてください」
「え、この前、写真送ったときは喜んでくれたじゃない」
「それとこれとは別です。今すぐ消してください」
里美の剣幕に喜代子は慌てて画面を切り替えた。通話をつないだまま、先ほどの投稿を開く。
「今、消したわ」
何度か操作をミスしながらも、なんとか削除し、喜代子は小さく息をついた。
しかし、里美の声は冷たいままだった。
「今後は絶対にやめてください」
「ごめんなさい。怒らせるつもりじゃなかったのよ。ただ、莉乃ちゃんが頑張っていたから、お友だちにも見せたくて……」
困惑を隠せずにいると、途中で隆二が電話を代わった。
「母さん、言っておくけど、俺も里美と同じ考えだから」
「隆二まで、どうしてそんな……」
「悪いけど、今後一切、莉乃の写真は撮らせない。こういうことをされると、俺たちも安心して母さんに莉乃を会わせられないし」
隆二の言葉は、喜代子の胸に深く突き刺さった。だが、何をどう謝ればいいのか分からない。電話が切れたあとも、喜代子はスマホを握ったまま動けなかった。
「どうかしたのか」
テレビを見ていた夫が声をかけてきたが、返事をする余裕もない。悩んだ末に謝罪のメッセージを送ったが、里美からも隆二からも返信は来なかった。スマホが鳴らない家の中は、まるで水を打ったように静まり返っていた。
●運動会で撮った孫・莉乃の写真を軽い気持ちでSNSに投稿してしまい、里美と隆二を激怒させた喜代子。謝っても返事はなく、「今後一切、莉乃の写真は撮らせない」とまで言われてしまう…… 後編【孫の写真投稿で凍った家族関係…祖母が遅すぎる反省の末に知ったSNSの残酷な現実】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
