夢中で追いかけた晴れ姿
運動会当日の朝、喜代子は夫と並んで保育園の門をくぐった。園庭には保護者や祖父母たちが集まり、子どもたちの声があちこちから聞こえてくる。受付を済ませると、先に来ていた隆二と里美がこちらに気づいた。
「母さん、父さん、こっち」
隆二が手を上げ、里美も笑顔で頭を下げた。
「お義母さん、お義父さん、来てくださってありがとうございます」
「こちらこそ呼んでくれてありがとう。莉乃ちゃんは?」
「もうクラスで集まっています。ほら、あそこ」
里美が指さした先で、赤い帽子をかぶった莉乃が列に並んでいた。喜代子たちを見つけると、ぱっと顔を明るくして手を振る。喜代子も両手を振り返した。
「莉乃ちゃーん、頑張ってねー」
声が届いたかは分からない。それでも莉乃が嬉しそうに笑った気がして、喜代子は破顔しながらスマホを取り出した。
最初の競技はかけっこだった。
笛の音が鳴ると、子どもたちが一斉に走り出す。喜代子は画面越しに莉乃の姿を追いながら、夢中でシャッターを押した。
「頑張ったな、莉乃」
「速かったね」
戻ってきた莉乃に隆二と里美が声をかけると、莉乃は照れくさそうに下を向いた。
「負けちゃったけどね」
「でも転ばずに、最後までちゃんと走れたもの。すごいわ、莉乃ちゃん」
すかさず喜代子が言うと、莉乃は今度は得意げに笑った。
次のお遊戯でも、莉乃は先生の動きを見ながら、一生懸命に身体を動かしていた。真剣な表情を見ているうちに、喜代子は胸がいっぱいになった。莉乃の成長を余さず写真に残したい。そう思ううちに、写真はどんどん増えていき、運動会が終わるころには、喜代子のスマホには莉乃の画像が何十枚も保存されていた。
「お義母さん、写真撮れました?」
「ええ。選ぶのが大変なくらいよ。あとで送るわね」
「ありがとうございます。助かります」
帰宅後、喜代子は夫と並んでソファに座り、写真を1枚ずつ見返した。
「なかなかよく撮れてるな」
「でしょう。やっぱりスマホにしてよかったわ」
喜代子は写真を選び、里美と隆二にチャットで送った。すぐに2人から反応が返ってきた。
「どれもいい写真ですね。ありがとうございます」
「母さん、撮るの上手くなったな」
しばらく画面を見つめたあと、喜代子はどこか誇らしい気持ちで返信を打ち込んだ。
