真はパソコンの画面を見ながら動かしていた手を止めた。今やっている事務処理の入力方法が分からなくなってしまったのだ。

4月から電子部品を扱うこの会社に転職をして働き始めた。前に勤めていた会社も同じような仕事をしていたので基本的には問題はないのだが、それでもまだ慣れないことが多かった。

注文書や自分で取ったメモと画面を見比べていると、隣の席の平嶋浩太から声をかけられた。

「大丈夫ですか? 教えますよ」

「あ、ありがとうございます」

真は小さく感謝を告げて、事務処理の方法を尋ねた。

隣の席の"できる男"

平嶋は同じ33歳だが大卒入社組で社歴が長く、何かと頼りになる。

「ここは先に納期を入れるんです。後で数量をいじるとたまに表示がずれることがあるので」

真は言われたとおりにすぐに納期の欄を打ち込んだ。

「あとここは納品先が複数あるから、備考じゃなくて配送先コードで入れた方がわかりやすいと思います」

「なるほど……ありがとうございます。助かりました」

「何でも聞いてください。うちのやり方ってかなり特殊みたいなので。転職してくる人はみんな最初は苦戦してますし」

そう言うと平嶋は自分の仕事に戻っていった。隣にとても頼りになる人が居てくれて本当に良かったと思った。

その後は特に滞りもなく無事に仕事を続け、真は終業のチャイムが鳴るのを聞いた。

しかしいつものように、部署内の社員たちは誰一人として帰ろうとする気配はない。特別に忙しいわけではない。日に1時間、多くても2時間くらいの残業をして帰るのが習慣化しているらしかった。

真としては、不満はない。基本給は低くはないが手放しで喜べるほどに高くはないし、家に帰ってもこれといってやることがあるわけでもない。予定があるときは定時で帰れないこともないし、こうして+αの稼ぎを得られるのはありがたいことですらあった。

しかしそんな中で唯一、平嶋だけはすぐに帰り支度を始めた。真の視線に気付いたのか平嶋がこちらに目を向けてきた。

「お先に失礼します」

「あ、うん。俺はまだもう少し残ってやっていきます」

仕事がまだ残っていたので真はそう答えた。

「それじゃお疲れさまです」

それだけ言うと平嶋はさっさと帰っていってしまった。

平嶋は頼りになる存在だが、完璧がゆえの近寄りがたさもあるなと感じていた。