娘の叫びが胸に突き刺さる…剥がされた「偽りの仮面」
美咲は、持っていたコンビニの袋を地面に叩きつけた。中に入っていたパンと牛乳が転がる。
「私が欲しかったのは、タワマンでも、高い服でもない! パパが笑ってることだったのに。引っ越してから、パパ、一回も私の目を見てくれなかったじゃない。ずっと『ごめん』って……。謝られるたびに、私がパパを不幸にしてるみたいで、すごく苦しかったんだよ!」
娘の叫びが、胸に突き刺さる。
私は、家族に不自由をさせないことが「愛」だと信じていた。だが、私が守ろうとしていたのは家族の幸せではなく、自分の「強い父親」という虚栄心に過ぎなかったのだ。
「ごめんな……本当に、ごめんな」
今度の「ごめん」は、今までとは違う意味だった。
プライドを捨てたつもりで、私は一番醜い執着を握りしめていた。その執着が、一番大切な家族の心を傷つけていたことに、ようやく気づいた。
深夜の和室で分かち合った、1杯の温もり
翌朝、私は警備員の仕事を終え、ボロアパートに帰宅した。
狭いキッチンでは、妻が朝食の準備をしていた。私の姿を見て、妻は何も言わず、「お疲れ様」とだけ言って、湯気の立つ味噌汁を差し出した。
食卓には、美咲も座っていた。
「パパ、昨日のパン、潰れちゃったけど食べる?」
照れ隠しのように差し出されたクリームパン。
かつて数万円のフレンチを食べていた時よりも、その150円のパンの味は、震えるほど深く私の心に染み渡った。
「ああ、うまいな……」
自然と涙が溢れた。40代を過ぎて、家族の前でこんなに泣くことになるとは思わなかった。
私はその日、ハローワークへ向かった。
選んだのは、かつての業界とは全く違う、小さな物流会社の事務職。手取りは20万円そこそこだが、夜は家族と一緒に食卓を囲める仕事だ。
