<前編のあらすじ>
将来への強い不安から、NISAの年間投資枠360万円を埋めることに執着し始めた夫。高年収でありながら食費を極限まで削り、妻・真由美にも過剰な倹約生活を強いていた。
その結果、家庭内は完全に冷え切ってしまう。ついには株価の暴落をきっかけに、真由美から「今、生きている心地がしない」と絶望の言葉を突きつけられてしまう。
前編:【世帯年収900万でも生活が苦しい…「NISA貧乏」で100円のモヤシに震える妻、“入金力アップ”にとり憑かれた夫の過ち】
学資保険まで解約して全突っ込み…ついに家族が崩壊
真由美の悲鳴を、僕は「投資の素人の動揺」だと片付けようとした。
むしろ、この暴落こそが「絶好の仕込み時」だと自分に言い聞かせた。年360万円の枠を埋めるため、ボーナスも、娘のために貯めていた学資保険の解約返戻金も、すべて買い増しに充てた。
「ここで入金力を最大化すれば、10年後の俺たちは笑っていられるはずなんだ」
僕は、将来の不安という化け物に餌を与え続けた。
だが、家の中はみるみるうちに壊れていった。真由美はもう、僕に夕食の献立を相談しなくなった。娘も僕を避け、暗い顔で安いパンをかじるようになった。
「あなたは好きなだけ証券口座を見ていたらいい。私は、娘との“今しかない時間”を大切にしたい」
ある日、会社から帰ると手紙を残して真由美と娘の姿が消えていた。
「含み益」の頂点でも幸せを感じられない
独りきりのリビングで、僕はスマホで証券口座のアプリを開いた。
株価は底を打ち、急速に回復していた。画面には、かつて見たこともないような大きな「含み益」が表示されている。
成功だ。僕の判断は正しかった――数字の上では、勝利したはずだった。
しかし、その数字で真由美の笑顔を買い戻せるだろうか。娘が「パパ」と呼んで抱きついてくれた、あの温もりを再現できるだろうか。
「将来の安心」を積み上げるたびに、僕は「今の家族」の幸せを切り捨てていたのだ。
年収800万円。なのに、家の中には誰もいない。冷蔵庫には、期限の切れた見切りの納豆だけが寂しく残っている。
