夫婦二人三脚の在宅ワーク
夫婦で立て続けに仕事を辞めてから1カ月ほど経ったころには、平日の昼間を家で過ごすことにも少しずつ慣れてきた。
とはいえ、のんびりしているわけではない。
朝、侑大がパソコンを立ち上げるころには、三花もダイニングテーブルにノートと手帳を広げ、その日の予定や連絡事項を確認するのが日課になっていた。
「今日、10時から打ち合わせだから、その前に先方の返信だけ見ておいてくれる?」
「うん。添付がちゃんとそろってるかも見たほうがいい?」
「そこまで見てもらえると助かる。足りないものがあったら、こっちで言うから」
「分かった」
請求書の送付、スケジュールの調整、素材の受け取り確認、簡単な更新依頼の整理。任されるのは事務まわりが中心だったが、三花にとっては初めて触れる言葉も多かった。侑大の口から自然に出てくる用語を、そのたびに頭の中で書き留めていく。
「ワイヤーって、この前言ってた設計図みたいなものだよね」
「そう。デザインを作る前の下書きみたいなやつ」
「じゃあ、ここで配置を決めてから見た目に入るんだ」
「うん。その順番。だいぶ分かってきたね」
昼前には手を止めて、2人で簡単な昼食をとることが多い。以前のように、店のバックヤードで急いでおにぎりを食べたり、帰宅時間を気にして夕飯の段取りを考えたりしなくていい。それだけでも、三花には大きな変化だった。
「助かるなあ。前よりだいぶ仕事回りやすい」
「ほんと?」
「うん。メールとか請求書とかを気にしなくていいだけで、全然違う」
「ならよかった。私も店にいたときより楽」
「だろうね。見てれば分かるよ。表情が明るくなった」
「そう?」
「だって前は、この世の終わりみたいな顔で帰ってきてたでしょ」
侑大が何気なくそう言って笑い、三花もつられて笑った。
自分でも、以前より身体が軽くなったとは感じていた。慣れない仕事に戸惑うことはあっても、侑大には気兼ねなく質問ができる。夫婦で同じ方向を向いて、仕事をこなしているという実感もまた、新鮮で心地よかった。
