現実が重くのしかかる日々

その日の朝、はるかはいつもの通学電車がやけに辛く感じられた。

腰や膝の関節がじんわりと痛み、講義中も頭の奥に薄い膜が張ったようにぼんやりする。寝不足のせいかと思ったが、午後には喉の違和感で声を出すのも億劫になり、背中に薄い寒気まで走った。

「はるかちゃん、大丈夫?」

隣の席の友人が、小声でのぞき込む。

「うん……ちょっとだるいだけだから」

「でもかなり顔、赤いよ。今日もう帰ったら? 出席、私代わりにやっとくから」

「ありがと……そうしよっかな」

「1人で帰れそう?」

「平気平気」

強がってそう答えたものの、駅まで歩くだけでも息が上がった。部屋に戻るなりベッドに倒れ込み、上着も脱がないまま目を閉じる。

少し寝れば楽になると思ったのに、夕方に目を覚ましたときには、さらに体調は悪化していた。喉が渇いているのに、立ち上がる気力がない。這う這うの体で体温計を脇に挟むと想定外に高い数字が出て、はるかは眉をひそめた。

「うそ……」

薬箱から風邪薬を探し、水で流し込む。冷蔵庫には飲みかけの麦茶と、買い置きしていたゼリーが1つだけ残っていた。

病院に行ったほうがいいと頭では分かる。しかし、熱で思うように動かないこの身体で、外出するのは難しく思えた。

なにより、受診したらいくらかかるのかも気にかかる。

今の残高で大丈夫だろうか。もしも払えなかったら。

そう考えた途端、ますます気分が悪くなった。

(どうしよう……)

そのときスマホが震えた。母からのメッセージだった。

「元気? 今日はもう帰った?」

続けて、もう1件届く。

「ごはん食べてる?」

はるかは画面のポップアップを見つめたまま、指を動かせなかった。大丈夫と返す元気も、今の状態を説明する気力も出ない。

一晩休めば治るかもしれない。そんな考えにすがるように、スマホを枕元へ置いた。

 

ところが、翌朝になっても熱は下がらなかった。節々が痛く、起き上がるだけで視界が揺れる。大学を休むと連絡を入れると、友人からすぐに返信が来た。

「ほんとに大丈夫? 何か買っていこうか?」

「平気。寝てれば治ると思う」

そう返したものの、自分でもその文面がひどく頼りなく思えた。はるかは毛布を引き上げ、目を閉じた。1人暮らしの部屋で寝込むのは、思っていたよりもずっと心細かった。

●上京して1人暮らしを始めたはるかは、慣れない新生活の中で出費がかさみ、金銭的な不安を抱えていた。そんな矢先、高熱で倒れてしまうが、お金のことが気がかりで母にも連絡できず、たった1人で部屋に閉じこもってしまう…… 後編【頼れない、払えない、動けない…一人暮らしの娘が高熱の果てに知った現実と母に言えなかった本音】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。