1000円の馬券が招いた修羅場
「後ろめたいっていうか、わざわざ言う必要もないと思ったんだ。だって1000円しか賭けてないんだ。それくらいなら別にいいだろ……?」
美菜は鋭い視線を向けてきた。
「ってことは1000円くらいの賭けなら今後も勝手にやるってこと? 本当にこれだけしかしてない? 今までもずっと隠れてやってたんじゃないの?」
美菜から疑われて慎太郎は怒りを覚えた。自分が普段どれだけ節制してるのか美菜は分かってない。
「やってるわけないだろ……! こんな安い小遣いしかもらえてないのにそんな余裕はないって……!」
「でもやってたじゃない」
美菜は馬券を指さした。
「たった1回だろ⁉ その1回でこんなに言われないといけないのかよ⁉」
慎太郎は思わず声を荒らげた。
「疑われるようなことをやったのはもう忘れちゃったの?」
「何年前の話だよ……!」
慎太郎がそう言うと美菜はゆっくりと立ち上がった。
「そうやって開き直ってるうちは本当に反省してるとは言わないわ。昔ならまだよかったけど今は悠希もいるの。悠希にまで迷惑かけるようなことをしたら私は絶対に許さないから……!」
それだけ告げると美菜は部屋を出て行ってしまった。慎太郎はテーブルにあった馬券を握りつぶしてゴミ箱に投げ捨てた。
◇
美菜と慎太郎は冷戦状態に突入した。ただ慎太郎はケンカの翌日から自分の言動を後悔していた。
いくらイラついたとはいえ、開き直るような態度を取ったのが良くなかった。借金が発覚したとき、美菜は慎太郎を見捨てることなく返済に協力までしてくれた。そのことへの感謝を忘れたことはなかったが、ケンカのときだけはその場の感情に流されてしまった。
慎太郎はどうにかして謝罪と仲直りの場を設けたいと思っていたが、どう声をかけていいのか分からず、何も進まないまま時間だけが経っていた。
そんなあるとき、いつものように敦と昼食を取るためにランチをやっている店に向かった。その道中に昼間からやっている立ち飲み屋があるのだが、そこの壁にサンキューの日と大きく書かれた貼紙を見つけた。3月9日がサンキューの日ということで390円でちょい飲みセットを出すと書かれてあった。
そこで慎太郎の頭にあるアイデアが浮かんだ。
●過去の競馬の借金を妻・美菜に肩代わりしてもらい、小遣い制で暮らす慎太郎。付き合いで1000円だけ馬券を買ったことがバレて夫婦は冷戦状態に。謝りたいのに切り出せずにいた慎太郎は、「サンキューの日」に感謝を伝える計画を思いつく…… 後編【「ギャンブルよりも黙ってたことが許せない」妻の貯金を使わせた過去を持つ夫が冷戦の末にたどり着いた感謝】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
