身に覚えのない怒り

それからも慎太郎は節約して日々をやり過ごし、なんとか給料日の前日までしのいでいた。

「パパ、お帰り!」

「ただいま」

慎太郎は悠希のことを抱きかかえた。

「ご飯、用意してるから」

それだけ告げると美菜はリビングに戻っていった。声のトーンを聞くだけで美菜が怒っていることが伝わってきた。

「あ、ああ。ありがとう」

慎太郎は悠希に動揺を感じさせないように答えた。自分の行動を思い返してはみたが、どうして美菜が怒っているのか分からなかった。

 

真相が分かったのは悠希を寝かしつけた後だった。

「ちょっと話があるの」

美菜に呼ばれて慎太郎はダイニングテーブルに対面して座った。美菜はポケットから1枚の紙を取り出した。それは馬券だった。それを見た瞬間、慎太郎は美菜が怒っている理由をはっきりと理解した。

「……冬物をクリーニングしようと思ってコートのポケットを見たらこれが入ってた。どういうこと? ギャンブルはもうしないって約束だったよね?」

慎太郎は慌てて弁明をした。

「いや、これは本当に違うんだ。仕事納めの後に毎年、同期たちと昼から飲むっていうのをやってるだろ。そのときに年末の大一番みたいなレースがあったから、運試しに全員でやろうって流れになったんだよ。場外馬券場に行くみたいなのが勝手に決まってさ。俺だけ反対するってのは空気を悪くするし。だから本当にちょっと一緒に賭けたってだけだったんだよ」

「それならなんで話してくれなかったの? 黙ってたのは後ろめたいことがあるからでしょ?」

慎太郎は大きく首を横に振る。