野口家の朝は毎日慌ただしい。慎太郎は急いで朝食の目玉焼きと白ご飯をかき込むと寝室に戻ってスーツに着替えた。寝室を出る前に財布の中身を確認する。千円札が3枚と小銭が少し入っている。
給料日まであと5日ある。もし一度でも飲み会に行くことになったらアウトだ。しっかりと管理をしてやっていたのだが、この間の飲み会で想定を大きく超える出費をしてしまった。
さすがに今のままでは心もとないと慎太郎は感じた。
慎太郎は財布を閉じて玄関に向かう。リビングから妻の美菜が顔を出してこちらを見てきた。小遣いを無心しようかと慎太郎が口を開きかけ、しかしそれよりも早く美菜が微笑んだ。
「忘れ物はない?」
「ああ、大丈夫だよ」
革靴を履きながら慎太郎は答えた。
「悠希、お父さん行っちゃうよ〜」
美菜の声に応じてパジャマ姿の悠希が笑顔でやってきた。
「パパ、行ってらっしゃい!」
元気に声をかけてきた悠希の頭を慎太郎はなでた。
野口家のささやかな日常
悠希はこの前の誕生日で4歳になっていた。
ついこの前まで美菜の腕に抱かれていたはずなのに、と成長の早さに感慨深くなる。慎太郎が29歳のときに産まれた子どもでかわいくてしょうがない存在だった。
悠希の隣に美菜が立つ。
「いつも元気に挨拶をするねって保育園の先生にも褒められたもんね」
美菜の言葉に悠希は嬉しそうにうなずいた。我が子が褒められたというだけで、自分のことのように慎太郎も喜びを感じ、そして悠希を誇らしく思った。
「そうか、悠希は偉いな」
慎太郎がそう言うと悠希は満面の笑みを浮かべる。そんな悠希に見送られながら慎太郎は家を出た。
