ヨガインストラクター講座の体験会
そして迎えた日曜日、美菜はヨガのインストラクター講座の体験会に向かった。
別にヨガインストラクターになろうと思っているわけではない。ただ吉田の姿を見て何か新しいことを始めてみたいと触発されたのだ。
施設に入るとそこには美菜と同様に体験会を受けに来た人たちがいて、彼らと一緒にカリキュラムの説明や実際にレッスンを受けたりした。講師もとても優しそうな人だったし、なにより溌剌とした印象が美菜の目にはとても眩しく映った。やっぱりヨガって楽しいなと思った。
美菜がヨガに通い始めたのは、雪が小学生になって手がかからなくなってからだった。昔から興味があったのだが通い出してみるととても楽しく今でも時間を見つけては通っていた。
ヨガは自律神経を整えてくれてストレス解消にもなる。少しでも多くの人にヨガを広められたらそれは素晴らしいことだ。
別にヨガインストラクターになろうと思っていたわけではなかった。けれど体験会が終わるころには、美菜の気持ちはすっかり変わっていた。
「え? インストラクター?」
資格を取ってみようと思うという美菜の話を聞いた幸平は思い切り不満そうな声を出した。
「そう。ちょっとやってみたいのよ」
「インストラクターってそんな稼げるの?」
幸平の問いに美菜は首をかしげる。
「いやそういうのは分かんないけど……」
美菜の反応に幸平は眉をひそめた。
「そういうのも知らないでインストラクターになろうとしてるってこと?」
「違うの。インストラクターとして働くってわけじゃなくて、まずはとりあえず本格的に勉強して資格を取ってみようって思って」
「……その受講料っていくらくらいするの?」
「えっと、30万くらい……」
額を聞いて幸平は呆れたように肩を落とした。
「あのさぁ、そんなよく分からない趣味のために30万も使うなんて意味ある?」
「でも今日説明をしてもらった感じだと真面目に通えば資格は取れそうだし」
「資格取って何になんの? 働く気ないんでしょ? それなら単にお金を捨ててるだけじゃん。そんなことのために使っていいわけないだろ?」
幸平の小馬鹿にしたような言い方にむかつきを覚えた。
「雪の将来のためにもお金は貯めておかないといけないんだから変なこと言うなよ」
幸平はそれだけ言ってスマホに目を落とした。これ以上は何を言っても無駄だろうと思って美菜はソファを立ったが、心のモヤモヤはしっかりと残っていた。
●元同僚がヨガインストラクターになった姿に触発され、自分も資格を取りたいと考えた美菜。しかし夫・幸平は講座について「30万も使うなんて意味ある?」と小馬鹿にするように拒否したのだった…… 後編【「いてもいなくても変わらない」育児を押し付ける夫…資格取得を機に2つの決断をした妻の“覚悟”】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
