告げられた衝撃の決まり

朝の空気は冷たく、息が白い。

舞子はごみの指定袋を片手に、集積所までの短い坂を下りる。中身は昨夜のうちに確認した。生ごみは水気を切り、紙はまとめ、袋の口は図のとおりに結んだ。分別表の印刷もキッチンの壁に貼ってある。わずかでもこちらの落ち度を残したくなかった。

「ちょっと待ってください」

ネットを持ち上げ、袋を置こうとした瞬間、人の声がした。

振り向くと、視界の端に松田が立っている。少し離れたところで別の住人が袋を置き、ちらりとこちらを見て足早に去った。監視されている気がして、気分が悪い。

「何ですか。分別は、間違ってないはずです」

舞子は先手を打つように言った。平静を装ったつもりでも、声が上ずっている。松田はごみ袋ではなく、舞子の顔を見た。

「ここ、町内会のごみ捨て場なんです。会員以外は使えません」

「え……指定袋だし、自治体のルールは守ってますけど」

「それとは別です。町内会の決まりなので」

舞子は手に持った袋の口を固く握る。

「じゃあ、うちはどこに出せばいいんですか。ごみ処理場まで自分で運べってことですか」

「入会していただければ、問題なくここを使えます」

松田の取り付く島もない口調に、舞子の苛立ちがはっきりした。ただ黙って従うことを求められている。

「町内会に入らないとここでは生活できない、って言いたいんですか」

「そういう話ではありません。決まりですから」

語気が強くなるのを止められなかった。

「ルールって言えば何でも通るんですか。ごみ、うちの玄関に置いたのあなたですよね。嫌がらせはやめてください」

松田の眉が動いた。

「私は――」

「もう結構です」

舞子は最後まで聞かず、袋を引き上げた。手首に重さがかかる。帰り道の坂が、さっきより長く感じた。

このままではいけない。そう思うのに、考えがまとまらない。

家の鍵を開ける手が、少し震えていた。

●引っ越し直後、町内会への入会を拒んだ舞子。集積所に出したごみが玄関前に戻されることが続く。町内会の松田に集積所は「会員以外は使えない」と告げられ、感情的に反発した舞子であった…… 後編【「だから嫌いなの。町内会なんて」軋轢によって直面した息子への“しわ寄せ”…町内会を拒む女性の真意とは】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。