玄関前に戻された可燃ごみ

朝、舞子はキッチンで米を研ぎ、炊飯器のボタンを押してから可燃ごみの袋を縛った。指定袋の口は二重に結び、食品トレーは分別表どおり昨日のうちに洗って乾かしてある。

玄関を出ると、霜の残る空気が頬に当たった。庭先には、植樹したばかりの枇杷。集積所までの道は静かで、人も車も通らない。袋を置き、ネットをかける。

 

荷解きの続きと家事をこなし、昼前に買い出しから戻ると、玄関前にその袋があった。結び目に、黒いマジックで「ルール」とだけ書かれた紙が挟まっている。

舞子は立ち尽くし、喉の奥が乾いた。それでも、まず袋を開けて中身を確かめた。破れはないし、匂いも漏れていない。

「分別、間違ってないのに」

低い独り言が落ちる。

舞子はスマホで市の分別ページを開き、該当品目を1つずつ検索した。曖昧なものは写真付きの一覧で確かめる。念のため袋を新しい指定袋に替え、結び方も図のとおりにした。

「次の指定日は……火曜か」

その日の午後になると、通りのほうから重機の音が響いた。窓を開けると、道の端にコーンが並び、作業員が腕で誘導している。

舞子は自治体サイトを探し、区の窓口の番号をメモして電話した。工事中は、通行止めの時間帯があるとのことだった。本来なら自治会の回覧板等で通知されることらしい。

「地味に面倒ね……」

とはいえ町内会なんて入らなくても、必要な情報を得ることはできる。舞子は自治体のアカウントに登録してスマホを置いた。

信じられない2度目の事態

指定日の朝、舞子は同じ手順でごみ袋をステーションに出した。しかし買い物を終えて帰宅すると、また玄関前に戻っている。今度は張り紙がない。舞子は重さを確かめるように袋を持ち上げた。

「……信じられない」

夜、夫の将司が帰宅して靴を脱ぐ音を聞き、舞子はキッチンから声をかけた。

「ごみ、また戻ってた」

「分別、違ってたとかじゃなく?」

「うん、ちゃんと調べた。分別も出し方も合ってるはず。なのに……」

言い切れず、舞子は水を注いだコップを握りしめる。将司は黙って頷き、横に立ってその肩に手を置いた。その温度に少しだけ救われるような気がしたが、玄関前に置かれた袋の輪郭が、頭の中から消えなかった。