布団から起き上がれなくなった朝

「もっと頑張らないと駄目じゃない。みんなも頑張っているのに」

母親の言葉はもはや叱咤激励ではなく、美咲さんを非難する響きすらありました。

母親の冷たい声が美咲さんの心に何度も刺さります。次第に美咲さんの心はむしばまれていきました。そのせいでいつも微熱があり頭が重い、体がだるく食欲も湧かないという状況に陥ってしまったのです。

そしてある朝、美咲さんは布団から起き上がれなくなってしまいました。体調不良のためしばらく高校を休んでいましたが、それでも回復することはありませんでした。

心配した母親は美咲さんを近所の内科に連れて行きました。しかし検査をしても特に体に異常は見つかりません。

母親が医師に事情を説明したところ、内科医から「ひょっとしたらストレスのせいかもしれません」と言われ、心療内科を受診するよう勧められたそうです。

そこで母親は美咲さんを近所の心療内科に連れて行きました。その結果、適応障害の診断を受けました。なお、適応障害とは、生活上のストレスが原因で心や体に不調が出ている状態を指します。

心療内科の医師からは「しばらく学校を休んで様子を見た方がよいかもしれません」と言われました。そのアドバイスに従い、美咲さんは引き続き学校を休みました。しかし心が休まることはありませんでした。授業からどんどん置いて行かれてしまう、といったプレッシャーが美咲さんを追い詰めていったからです。

その後、美咲さんの体調は回復することなく、状態は悪くなる一方。限界を感じた美咲さんは、母親と学校の先生とで話し合い、高校を中退することになりました。

高校を退学してしばらくした時のこと。

「せめて高校くらいは卒業してほしい」

そのような思いから、母親は美咲さんに通信制高校を勧めてみました。しかし、勉強に心底嫌気がさしていた美咲さんは母親の提案を拒否。そのままひきこもりのような生活をするようになってしまいました。