株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、都内ホテルのラウンジで投資談義を行っています。

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神様:1月28日、埼玉県八潮市の交差点で大規模な道路の陥没が生じ、男性1名が乗ったトラックが転落する事故が発生しました。道路陥没の原因は、道路の下を通っていた下水道管の老朽化による破損と見られます。

T:ここ数年、水道管にまつわる事故が全国各地で発生しています。私たちも昨年8月、ライフラインである水道管は現在危機的状況であり、早急な更新対応が必要であることを確認しました( 第412話 日本の水道「危機的な状況」に 設備更新待ったなし)。今回の大規模な事故は、水道インフラの老朽化が実際に表面化したものと見ることができますね。

神様:詳しい原因については調査が待たれるところですが、下水道管の破損をきっかけとして、様々な副次的な災害が発生しました。今後も同様な事故が起こる可能性が十分にあり、対策が急がれるところです。石破総理は2月20日、中野国土交通大臣に対し、下水道管だけでなくインフラ全体の老朽化対策の検討を進めるよう指示しました。今後の動向に注目しましょう。

T:八潮市の事故だけでなく、他にも各地で道路陥没事故が発生していることも報道されています。多くの人が不安に感じていると思います。対応が進むことを望みます。

神様:ところで、下水道管の破損による道路陥没は、1年間でどのくらい発生していると思いますか?2022年度のデータですが、国土交通省によれば、下水道管の破損による道路陥没は全国で約2,600件以上発生したことが分かっています。

T:年間でそんなに発生していたのですか?

神様:ちなみに道路陥没全体の発生件数を見ると、2022年度で1万件以上発生しています。陥没の原因の割合で最も大きいのは、道路排水施設や道路側溝などの道路施設によるもので約5割を占めます。その次に大きいのが下水道や上水道、電気・ガスなどの生活インフラに関するもので、2割程度を占めます。

T:道路や橋なども重要なインフラであり、おそらく水道と同様に老朽化が進んでいるのでしょうね。

神様:水道管の話に戻しましょう。日本の水道管の長さは合計で約74万キロメートルと、地球の18.5周分に相当します。水道管の法定耐用年数は40年です。全水道管に占める法定耐用年数を超えた水道管の割合を「管路経年化率」と言います。現在、この管路経年化率は2割を超え、さらに上昇傾向にあります。

 

T:全国の水道管で法定耐用年数を超えた水道管が増え続けている、ということですね。

神様:その通りです。一方で、1年間でどれだけ水道管の更新を行ったかを示すのが「管路更新率」です。こちらは年々低下していることが分かっています。また、2022年度における水道インフラを支える基幹管路のうち、耐震性のある水道管の割合は42.3%に過ぎません。耐震適合性のある水道管への更新が進み、総延長距離は増加していますが、地震に対する備えは十分とは言えません。

 

T:老朽化した水道インフラの更新を急がなくてはなりませんが、現在何が課題となっているのでしょうか?

神様:課題として挙げられるのは、予算の確保、そして人員の確保です。上下水道事業に従事する職員数は減少を続けています。2000年代半ばと比較し、上下水道ともに3割人員が減少していることが分かっています。また、管路工事を行う企業も、東日本大震災前から1割減少していることが分かっています。

T:労働人口が減っていく日本において、工事に従事する人や企業の減少は今後直面しなければならない現実です。このまま進めば水道インフラの更新は間に合わなくなっていくわけですが、対策はあるのでしょうか?

神様:これまで行ってきた事業の見直しを行い、より効率的・効果的に水道インフラの更新や運営を行っていくことです。国・自治体・企業それぞれの立場において、見直すことができるところを見つけ、事業を改善していくことが求められています。AIによる老朽化分析など、新しいツールの活用も重要です。今後は、これまでの方法にとらわれない、革新的な技術・方法を持った企業の活躍の場が広がるでしょう。