バブル崩壊後、厳しい状況のなか、新卒で就職活動をしなければならなかった「就職氷河期世代」。現在、30代後半から50代前半に当たります。
就職氷河期世代の老後が現実味を帯びるにつれ、社会保障への影響を含め、世間の関心が高まっています。第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣氏は、「就職氷河期世代を生み、そして一部ではあっても厳しい環境のままにしてきたことが、今日の少子化や長いデフレの一因になったことは事実」と指摘します。
本記事では、永濱氏に豊富なデータをもとに、就職氷河期世代の実態を解説してもらいます。(全4回の4回目)
●第3回:「アベノミクスで非正規ばかりが増えた」は本当か? 批判する人が見落としている二つのデータ
※本稿は、永濱利廣著『就職氷河期世代の経済学』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を抜粋・再編集したものです。
長い非正規生活による老後への不安
就職氷河期世代の経済事情という点で、今後の一番の不安は年金問題になります。2024年にマスコミが取り上げて話題になった「老後資金は4000万円必要」という報道に関しては、すでに過大推計であることを指摘しましたが、就職氷河期世代で長く非正規雇用だった人の場合、不安は尽きないと思います。
老後資金が2000万円必要にしても4000万円必要にしても、試算の前提となっているのは平均金融資産が2500万円近くある老齢無職世帯ですから、年金は厚生年金で退職金などもある程度貰える世帯の割合が高いのでしょう。
つまり、ある程度の貯蓄があり、かつ平均20万円を超える厚生年金を貰える世帯の収支をモデルケースとして計算していますが、非正規雇用の場合は厚生年金に加入していないケースが多く、仮に加入していたとしても加入期間はそれほど長くありません。
厚生労働省が就職氷河期世代である1974年度生まれの50 歳の人が65歳時点で受け取る年金額(現在の物価水準ベース)の分布状況を推計したところ、全体の39.1%が月10万円未満だったといいます。このうち18.1%は月7万円未満、5.7%は月5万円未満と言いますから、このあたりにも雇用の不安定さからくる年金加入期間の短さなどが影響しているようです。
このままだと、就職氷河期世代の年金額は相対的に低いものになり、生活保護に陥るリスクも高くなります。こうした対策として、厚生年金に加入できるパート労働者らの対象を拡大するといった策も講じられつつありますが、厚生年金というのは国民年金と違って雇っている企業側の負担が増えますし、中小企業の場合、その負担に耐えられず倒産するところもあるかもしれません。