今さら一方的に言われても

「香奈はパパのお金がほしいわけじゃないの。だから、香奈のことを悪く思わないで。二人きりのきょうだいなんだから、これで縁を切るなんてことになってほしくない」

母が切々と語ったのは、妹が私に対して強いコンプレックスを抱いていたという話でした。「子供の頃から理奈は蝶よ花よとかわいがられて育って、しかも、成績も良かったし、習い事をさせても何でも器用にこなしていたでしょ。香奈はお姉ちゃんみたいにできない自分が嫌でたまらなくて、内に引きこもったそうよ」

「家族や友達がみんな理奈の方ばかり向いている中で、幼い子供は自分を差別しないから子供が好きになったと言っていたわ」

「大人になってようやく自分の道を歩み始めたと思っていたけれど、理奈が雄吾さんと結婚したのがショックだったみたい。『お姉ちゃんはあんなにかっこよくて性格もいい旦那さんをゲットしたのに、自分は彼氏もいないし、一生独身かもしれない』ってまた鬱っぽくなったって」

そんな妹の一方的な思いを伝えられても、共感も納得もできるわけがありません。「まぁ、私の育て方にも問題があったのよね。若い頃は理奈のこと、自分のアクセサリーみたいに思ってたから」と悪気なく話す母にも向かっ腹が立ちました。

家族に不信感を覚え、母から「これだけはお願い」と頼まれた会社の株式だけ受け取ることにして、他の金融資産は私の分も全て妹に渡しました。

相続で揉めるというのがどういうことか、今回のことで身をもって経験した感じです。相続とは、親族に対して鬱積した負のマグマが一気に噴き出すトリガーなのかもしれません。

遺産分割協議書にサインをした日以降、妹と会うことはもちろん、一切連絡も取っていません。母に「生まれ変わって新しい人生を始める」と話したという妹は、父の一周忌にも姿を見せませんでした。

恐らくこの先も、母に何かあった時くらいしか会うことはないでしょう。本音を言えば、二度と顔も見たくないし、名前を呼ぶのも嫌なくらいです。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。