自己評価は「想起しやすいかどうか」で変わる
ミシガン大学のノーバート・シュワルツは「利用可能性ヒューリスティック」に関する実験を行いました。まず対象者に過去の自分の行動の中から「積極的に自己主張したエピソード」を思い出してもらいました。半数の対象者は6例、残り半数は12例を思い出すように指示します。その後にすべての対象者に、自分自身の「積極性の程度」を評価してもらいました。
実はこのようにエピソードを思い出す際には、最初三つか四つはすぐに思い浮かんでも、残りはなかなか出てこない傾向があるのです。このことは実験前の調査で明らかになっており、この実験の場合も同じでした。
実験の結果、苦労して12例を思い出したグループは、自分自身の自己主張の度合いを、6例しかエピソードを思い出していないグループより低く、つまり自分たちは「積極的ではない」と評価しました。もし自己の評価が、実際に心に思い浮かんだエピソードの「内容」に因るものならば、12例を想起したほうが自分をより積極的とするはずです。自分が積極的であると考える根拠が今、頭の中にあるからです。
ところが、結果は逆でした。こういった自己評価になるのは、12の実例を想起するのが難しかったためです。つまり、「積極的に自己主張した事例を容易に思い出せなかった」のは、「自分は積極的でないからだ」と考えたためと思われます。
この実験からは「想起内容」よりも「想起しやすいかどうか」が判断に影響を与えることがわかります。積極的に自己主張したエピソード6例を「簡単に思い出した」人が、自分は自己主張が強いと考えたのです。
さらに、これと類似した実験も行われています。「自己主張をしなかったエピソードを12例、書き出してください」と別のグループに指示したのです。すると、この対象者は「自分はとても自己主張が強い」と評価したのです。自己主張をしなかったエピソードを簡単に思い出せなかったために、自分は全然大人しくないと自己評価したわけです。
冒頭の事例で、コンビニの数が歯科医や美容院より多いと感じてしまうのは、生活する中でコンビニを見かける頻度や利用頻度が高く、想起しやすかったためと考えられます。おそらく、コンビニには毎日のように行くことでしょう。
逆に、美容院であれば利用頻度は月に1回程度、歯科は年に数回程度ではないでしょうか。こういった経験による印象の差が、実際に存在する数の見込みを誤らせるのです。この利用可能性ヒューリスティックに影響される人は、自分が見た(と思った)ものがすべてと考えてしまう傾向があります。