水素に国策化の追い風 岩谷は先行投資で需要に備え

岩谷産業は水素関連銘柄の代表格として知られています。

岩谷産業の水素販売は国内トップクラスです。およそ7割のシェアを持つとみられ、特に液化水素では市場を独占しているとみられます。

そんな水素ですが、近年は大きな注目を集めています。水素が次世代のエネルギーとして活用が期待されているためです。

日本は2017年、世界に先駆けて水素の国家戦略「水素基本戦略」を公表しました。水素を主なエネルギー源とする水素社会の実現を2050年までに目指す計画です。同様の戦略は各国で公表され、2022年までに日本を含め26の国と地域で策定されました(出所:経済産業省 水素基本戦略(2023年6月))

さらに2020年、日本はカーボンニュートラル宣言を発表します。2050年までに温室効果ガスの排出を差し引きゼロとする内容です。その実現に向け、2030年までに電源構成の1%程度を水素とアンモニアでまかなうことが目標として掲げられました。

現状、水素の主な用途は産業用です。ガラスや半導体製品の製造、金属の熱処理などに用いられます。水素基本戦略が進展するなら、さらにエネルギー用途として需要が生まれることになります。

需要の増加に備え、岩谷産業は水素事業への投資を強化します。推進中の中期経営計画(2023年度~20257年度)では重点施策に累計3200億円の成長投資を計画していますが、うち水素事業には最も多い1780億円を振り分けます。

【重点施策の成長投資額の内訳(2023年度~2027年度)】
水素:1780億円(55.6%)
・海外:940億円(29.4%)
・国内エネルギー・サービス:330億円(10.3%)
・脱炭素:150億円(4.7%)
※()は構成比

出所:岩谷産業 中期経営計画「PLAN27」

投資先行型の事業では、一般に償却費や金融費用の増加などから利益率が低下する傾向にあります。岩谷産業も中期経営計画において、2022年度比で自己資本利益率(ROE)と投下資本利益率(ROIC)の低下を見込んでいます。

岩谷産業の水素事業の売上高は2022年度で450億円でした。これを2027年度には920億円、2030年度では2000億円へ引き上げます。当面は費用の増加が想定されますが、将来の成長に向け先行投資を断行します。