続いて2つ目のディスロケーションも徐々に目立ち始めています。大きな要因は米中対立やウクライナ問題、中東情勢といった地政学的リスクの高まりです。いずれも一朝一夕に解決できる問題ではありませんから、しばらくはボラティリティが高い状態が継続すると見ています。

地政学的リスクが高まったからといって従来の政策アセットミックスを変更しなければならないわけではありませんが、運用を見直す機会にはなるでしょう。具体的には、リスクを抑えるために分散を検討したり、ボラティリティを活用したアルファ獲得戦略を考えたり、機動的な運用ができるマネジャーを探したりといった対応が考えられます。

また、プライベートアセットをはじめとしたオルタナティブ分野への投資がしやすくなってきている点も見逃せません。従来は新規の投資家を受け入れないファンドも多くありましたが、最近は市場の先行き不安を背景に既存投資家からの出資が減る傾向にあり、資金調達に苦労するようになっているのです。よってこれまで新規で受け付けてもらえなかった優良ファンドへの投資がしやすくなりました。

さらにヘッジファンドのパフォーマンスも改善が見込まれます。ヘッジファンドを巡っては、低金利や低ボラティリティ、銘柄間のばらつきの小ささなどを背景に好ましいリターンが見込めない状況が続いてきましたが、足元ではいずれも好転しました。その他、クレジット運用やプライベートエクイティにおけるGP主導のセカンダリー投資なども魅力的な投資先となりそうです。

そして長い目で見ればエマージング市場も投資妙味があるでしょう。近年のパフォーマンスは先進国市場に後れをとっていますが、経済ファンダメンタルズやバリュエーション、テクニカルといった観点からエマージング市場は魅力的だと考えられるためです。

特に厳しい状況にあるとされる中国市場についても、グローバルのベンチマークの中で過小評価になっているきらいがあります。また、大きなアルファを獲得するチャンスがあります。実際、中国市場のマネジャーは平均的に見て相当大きなアルファを稼いでいます。また好むと好まざるとにかかわらず中国市場のエクスポージャーを排除するのは難しいので、マーサーとしては少なくともベンチマークぐらいのウェイトは保有しておくべきと考えています。

最後に、レジームチェンジのもう一つのテーマとして効率的なリターンの獲得について取り上げます。欧米ではここ1~2年の金利急上昇を受け、最適なリターン・リスクの目安となる「効率的フロンティア」が大きく変化しました。

変化とは端的に言うと債券の期待リターン上昇です。これにより、従来と同じ目標利回りであれば株式の比率を減らしても達成できる見通しになりました。また効率的フロンティアのカーブが平たん化したため、株式を増やしたときに得られる期待リターンの上昇が従来と比べて小さくなっています。

日銀がマイナス金利政策の撤廃を決めましたので、今後は日本でも欧米同様の変化を迎える可能性があります。政策アセットミックスが適切かどうかは、金利上昇に対しアドホックに見直していく必要があるでしょう。仮に財政再計算を実施した後のタイミングで金利が急上昇したのであれば、5年後の再計算まで見直しを先延ばしするのは適切ではありません。金利が急上昇した時点ですぐにでも政策アセットミックスを見直すべきでしょう。

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後編では、長期間にわたって継続するトレンドである「スーパーサイクル」「メガトレンド」について取り上げる。