経営不振のATLを買収 世界トップの電池メーカーへ転身

TDKの近年の成長はエナジー応用製品が担っています。同セグメントの主要な製品はスマートフォンやタブレット向けの小型リチウムイオン電池です。

エナジー応用製品セグメントの売り上げは、2018年3月期までは受動部品と同程度でした。そこから5期で2.6倍に増加し、TDKの重要な収益源となっています。

【セグメント別売上高の推移(2018年3月期~2023年3月期)】

出所:TDK 決算短信より著者作成

TDKの電池ビジネスは比較的新しい事業で、参入したのは2005年です。香港のリチウムイオン電池メーカーであるATL(アンプレックス・テクノロジー)の買収がきっかけでした。

当時のATLは競合の台頭から経営不振に陥っていました。ATLの創業者であるロビン・ゼン氏がTDKグループに勤めていたこともあり、同社はTDKに出資を求めます。これに応じ、TDKはATL全株式を1億ドル(107億円)で取得しました。

ATLの買収は僥倖でした。ATLは買収後に目覚ましい成長を遂げ、スマートフォン向けバッテリーで世界トップのシェアを獲得しています。2023年3月期では5000億円以上の売り上げと900億円以上の純利益を稼ぎました。

【ATLの業績推移(2018年3月期~2023年3月期)】

出所:TDK 有価証券報告書より著者作成

TDKとATLは2021年、車載向け電池で世界首位のシェアを握るCATL(コンテンポラリー・アンプレックス・テクノロジー)との提携を発表しました。実はCATLもロビン・ゼン氏が設立した企業です(出所:Contemporary Amperex Technology Co., Limitedとの業務提携及び合弁会社の設立に関するお知らせ

ATLとCATLは家庭用や産業用の中型二次電池を開発する合弁会社を設立するほか、車載用でTDKとCATLの協業を模索するとしています。世界で高いシェアを持つ企業同士の提携を受け、TDKの電池事業にはさらなる期待が集まります。