危機的な状況に陥った企業にあえて投資する戦略を「ディストレスト投資」と呼びます。リスクが高く一般に高度な知識が求められる戦略ですが、成功すれば大きな利益を得られるかもしれません。

同様のケースは企業買収でも見られます。マネックスグループのコインチェック買収もその一つといえるでしょう。マネックスグループは2018年4月、不正流出事件によって窮地に陥っていたコインチェックの子会社化に踏み切りました。

「ネム流出事件」のコインチェックを36億円で買収

コインチェックはビットコインといった暗号資産(仮想通貨)の交換業者です。2014年にサービスを開始し、暗号資産市場の拡大とともに大手の一角を占めるようになっていました。

しかし2018年1月26日、コインチェックは不正アクセスを受け、「ネム」という暗号資産のほぼ全額が外部に流出してしまいます。コインチェックは巨額の補償費用や信用の失墜などから、事業の継続が困難な状況へと陥りました。

このような状況で、マネックスグループは同年4月にコインチェックの子会社化を決断します。全株式を36億円で取得する内容で、PER(株価収益率)で7.6倍という割安な取得費用だったものの、当時は将来の事業が見通せない中での買収を危ぶむ声も聞かれました。

【当時のコインチェックの財務状況(2017年3月期)】
・総資産:38.68億円
・純資産:5.40億円
・売上高:772.30億円
・営業利益:7.86億円
・純利益:4.71億円

出所:マネックスグループ リリース

もっとも、投資家を好意的に捉えていたようです。コインチェック買収は報道が先んじて伝えますが、直後からマネックス株式は大きく値上がりしました。

【当時のマネックスグループ株価(日足終値、2018年3月~5月)】

出所:Investing.comより著者作成