「コロナ・ショック」のマイナス評価をわずか2カ月で克服

ただし、2020年3月の「コロナ・ショック」の時には、大きなマイナスを経験する。当時の投資元本は約30兆円だったが、最大で4兆5,643億円(元本に対し15.24%)のマイナス評価を記録している。ただ、マイナス評価期間は3月9日から5月7日までの2カ月間に過ぎなかった。その後は、株価の回復に伴って評価益がどんどん大きくなっていった。特に、2023年になると元本は増えていないにもかかわらず、株価上昇によって評価額がグングンと拡大するステージになった。

日銀がETFの購入を開始してから、TOPIXは約2.5倍に値上がりした。しかし、日銀が購入開始した2010年当時というのは、2008年のリーマンショックの動揺が収まらない不安定な市場だった。実際に、2012年12月に第2次安倍内閣が成立して「アベノミクス」が打ち上げられたことによって日本の株価の底入れにつながった。それまでは、「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」という絶望的な経済環境だった。「大胆な金融政策(大型金融緩和)」(第1の矢)によってデフレマインドを払拭し、「約10兆円規模の機動的な財政政策」(第2の矢)で政府が自ら需要を創出し、「規制緩和による民間投資を引き出す成長戦略」(第3の矢)という「3本の矢」によって経済を活性化するというアベノミクスは、デフレによる縮小経済を反転させる劇薬になった。

2010年にデフレ対策として発想された日銀による国内株式ETFの購入は、アベノミクスという政策の追い風を得て、結果的に大きな成功を収めることになった。もっとも、抱え込んだ20兆円あまりの含み益は、ETFを売却しない限りは実現益とはならない。それこそ、日銀がETFを売却するという判断は、よほどの好景気でインフレ(物価上昇)が深刻な状況にならないと難しいだろう。2023年4月に就任した植田和男総裁は、金融緩和姿勢を崩してはいない。このため、今後、株価が大きく下落するようなことになれば、せっかくの20兆円の含み益を吐き出してしまうことになりかねない。