退職までに2000万円の貯蓄が必要って、やっぱり本当なんですか?

――月額36万円や22万円というのは、「これくらいあれば」という意識調査の数字ですよね。老後の生活で、実際に毎月いくらの金額を使っている、というデータもあるんでしょうか。

長尾FP:厚生労働省の家計調査報告に、はっきりした数字が出ています。2020年のデータを見ると、「高齢者夫婦無職者世帯」の収入は月額25万6660円、支出が25万5500円で、毎月1160円の黒字になっています。「無職者世帯」のデータなので、収入とは年金のことだと考えてください。

――へえ、黒字なんですか。さっきの意識調査にあった「ゆとりある老後生活」はできないけれど、「最低日常生活費」よりは数万円のプラスですよね。とりあえず、ほっとしました。年金だけでも、何とか暮らしていけるんですね。

長尾FP:2020年に限っては黒字だった、ということです。この年は新型コロナウイルスが流行した影響で、支出が例年よりもかなり低く抑えられる一方、1人10万円の給付金などもありましたから、じつはあまり参考にはなりません。

その1年前、2019年の同じ家計調査を見ると、だいたい毎月3万円ほどの赤字になっているんですよ。この年のデータがだいたい実情に合っているのではないか、と思います。年金だけでは暮らしていけない、というわけですね。

――毎月3万円の赤字なら、1年で36万円も不足する……。

長尾FP:10年間で360万円が必要になります。老後の生活が30年あるとすれば、トータルで1080万円足りないというわけです。じつは、この厚労省の家計調査は毎年、データがかなり異なっています。

2017年の調査では、毎月5万5000円の赤字という結果が出ました。計算すると、1年で66万円の赤字で、30年間では約2000万円足りないということになります。この「2000万円」という金額に聞き覚えがありませんか?

――あ! 年金だけでは暮らせないから、2000万円の貯蓄が必要だって、大きな話題になりましたね。

長尾FP:そう、いわゆる「老後2000万円問題」です。2017年のデータで見ると、確かに、こうした数字が導き出されます。とはいえ、2020年には逆に黒字になっていますよね。

要するに、老後の暮らしがどうなるのかは、収入と支出とのバランスに尽きます。各家庭や個人の事情、そのときの社会の状況によって変わってくるんです。