選択肢の1つとしての「投資信託」

資産運用を真剣に考えるべきタイミングを迎えた以上、個人が安心して、かつ長期的に資産運用を任せられるツールが必要です。そして、その最有力候補の1つが、恐らく「投資信託」です。

そうした背景もあり、投資信託会社をはじめとする資産運用業には高度化が求められています。その方向性を指し示すと共に、現状を把握するため、金融庁は年1回「資産運用業高度化プログレスレポート」を作成しています。

このレポートは全部で70ページほどあるので、本稿ですべてを説明することはできませんが、4月に公表された内容で気になった点について、簡単に解説したいと思います。

資産運用会社の経営トップへの疑問

一番気になったのは、「資産運用会社の信頼向上のために」という項目のひとつとして、資産運用会社の経営トップについて触れたことです。

レポートによると、「日系大手資産運用会社11社のデータによると、経営トップは、グループ内他社から資産運用会社への異動後、3年以内で就任する例が多い。中には、資産運用会社での経験が全くないまま経営トップに就任する場合もある」ということですが、これは日本の資産運用会社の独立性に大きく関わる問題です。

そもそも、日本の資産運用会社は、証券会社や銀行、保険会社といった大手金融機関系列のところが大半で、経営トップをはじめとする役員の多くが、大手金融機関から天下ってくるケースが少なくありません。

そのような経営トップがいる資産運用会社が、親会社の顔色をうかがいながら、親会社が販売手数料で儲かりそうな投資信託を設定・運用している姿が浮かんできます。

しかも、顧客から預かった資産を増やし、その成績が良ければさらに多くの人が預けてくれて、徐々に運用資産規模が拡大し、それによって収益を増やす資産運用会社と、右から左に株式や債券、投資信託を売買させて、その売買手数料で収益を稼ぐ金融機関とでは、ビジネスモデルが根本から異なります。

それにもかかわらず、資産運用会社の経験が全くないまま経営トップに就任するケースもあるというのですから、金融機関から独立した意識を持つ資産運用会社が育たないのも当然と言えるでしょう。

ちなみに、ここで言う「独立した意識」とは、資本関係の有無とは関係なく、少なくとも「親会社から言われるがままに、親会社の収益に貢献する目的でファンドを設定・運用することはしない」という気概を持っているかどうかという点が問われます。

しかし、これも経営トップの現状を見る限り、難しいという印象を受けます。