企業の業績や財務状況を把握し、今後の成長性や安定性を吟味するために必要なデータが詰まっている決算書。それを読み解く知識は投資家のみならず、ビジネスパーソンにも必須。
いまさら聞けない「決算書」について学びたい! そんな声に話題の書籍『「会社の数字」がみるみるわかる! 決算書のトリセツ』が優しく寄り添います。約30年間にわたり、銀行員やコンサルタント、M&Aアドバイザーとして多面的な実務経験を通じて決算書を読みつづけた前田忠志氏が、決算書のエッセンスを見極めるために確立した手法を解説。今回は特別に、本書の「はじめに」と、第1章「大きい取引ができるのは、社長か?課長か?―会社の大きさを読む 損益計算書(PL)1」の一部を公開します。(全4回)
※本稿は前田忠志著『「会社の数字」がみるみるわかる! 決算書のトリセツ』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
「決算書を読めるようになりたい」にこたえます
決算書は、会社経営の結果をあらわしたものです。決算書を読める力がつくと、取引先の状況がわかるなど仕事で役立ちますし、株式投資でも、就職・転職でもいかせます。会社と関わりをもつとき役立つのが決算書なのです。
また、仕事をしていくうえでのベースでもあります。あなたの仕事の結果も、最終的には決算書に反映されます。決算書について知らずに仕事をするのは、どういう演技をすると高い点数になるのか知らない体操選手のようなもの。やみくもに演技をしても高い点数にはなりません。
上司が明確に役割を指示してくれるうちは、成果を出すことができるかもしれません。でも、できるビジネスパーソンであるほど、また、管理職、経営者と立場があがるほど、決算書を読めることは仕事で結果を出すための前提になっていきます。
決算書を読めると、世の中のできごとを理解するのにも役立ちます。たとえば、「少子化なのに、おむつメーカーが成長しているのはなぜ?」「優良企業と思っていたトヨタが借金漬けなのはなぜ?」といったことが決算書でわかります。経済ニュースや企業ニュースも理解が深まるでしょう。
そして、決算書を読めるようになるのは、実は、結構簡単です。英語、IT、会計がビジネスパーソンの3大スキルなんて言われていますけれど、コスパが高いのは、会計です。
私はこれまで、決算書の知識ゼロだったスタッフをたくさん指導してきましたが、みんな、読めるようになりました。簡単なわりに、役に立つ。早く決算書を読めるようになるのにこしたことはありません。
ただ、学び方にはコツがあります。もし、あなたが、会計や経理の専門家を目指すのではなく、それでも、決算書ぐらいは読めるようになっておきたい、と考えるなら、専門用語の洪水に流されないことです。
決算書の本はすでに多く出版されていますが、その多くは、経常利益とは何か、とか、繰延税金資産は何かといったように、決算書に出てくる専門用語について次から次へと説明してあります。
それもそのはずです。決算書の本の多くは、公認会計士が執筆しています。公認会計士にとって、経常利益は何か、繰延税金資産は何か、というのは、とても大切です。公認会計士は、会社の決算書をチェックするのが仕事だからです。
決算書ができあがって、チェックするまでが仕事。それが終わったら、「はい、どうぞ。ご自由にご利用下さい」というわけです。専門家を目指すなら専門用語を数多く知ることも大切でしょう。でも、専門家になるわけではない人にとっては、専門用語を知ること自体は大切ではありません。「ご自由にご利用下さい」のところのほうが大切です。
決算書では、儲かっているか、つぶれないかといったことがわかります。こういったことを読み取る方法を最初から学んでいく。それが、専門家を目指すわけではない人に最適な決算書の学び方です。白状しますと、私は、公認会計士試験に合格しても、決算書を読めませんでした。
いや、私だけではないはずです。ばらしますと、公認会計士試験で問われるのは、主に、決算書を作ってチェックする力であって、これは決算書を読む力とは違うのです。公認会計士試験に受かったからといって、決算書は読めるようにはなりません。
私が決算書の読み方を身に付けたのは、銀行に入ってからです。私は公認会計士ですが、決算書をチェックする仕事ではなく、銀行員、コンサルタント、M&Aアドバイザーというように、決算書を読むほうの仕事を長く続けてきました。私が30年間、決算書を読み続けてきたなかで培ってきたエッセンスを、わかりやすく紹介します。