増額でも実質目減り?「マクロ経済スライド」の仕組み

厚生労働省は2023年1月、2023年度の老齢基礎年金が引き上げられ、前年度比で67歳以下の人は+2.2%、68歳以上の人は+1.9%の上昇となったと発表しました。年金額の引き上げは3年ぶりで、月額は13年ぶりに6万6000円台を回復しています(満額の場合)。

【老齢基礎年金の月額(満額支給の場合)】

厚生労働省「令和4年版厚生労働白書」および「報道発表資料」より著者作成

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一見すると年金額は大きく引き上げられていますが、実は改定率は賃金や物価の上昇率を下回っており、実質的に目減りすることになりました。これは「マクロ経済スライド」が発動されたためです。

マクロ経済スライドとは、年金額を抑制する仕組みのことです。現役世代の負担が過度に重くならないよう、2004年の改正で導入されました。年金額は物価や賃金の水準に応じて改定される仕組みとなっていますが、その改定率が一定以上となる場合、現役世代の公的年金加入者数の減少率と平均余命の伸び率で算出される「スライド調整率」を当該改定率から差し引く仕組みです。

2023年度の例で具体的に確認してみましょう。2023年度の年金額の改定に用いられる賃金変動率と物価変動率は、それぞれ+2.8%と+2.5%と大幅なプラスとなりました。そして賃金変動率が物価変動率を上回る場合は、67歳以下の人(=新規裁定者)は前者が、68歳以上の人(=既裁定者)は後者が用いられ年金額が決まります。

しかし賃金と物価の変動率がマクロ経済スライドの発動条件に抵触したため、それぞれスライド調整率が差し引かれることとなりました。2023年度は当年分で0.3%ですが、前年度までに調整できなかった繰り越し分が0.3%あり、合わせて0.6%分の調整が行われています。結果として、年金額の引き上げ率は賃金や物価の上昇率を下回ることとなりました。

【2023年度の年金額改定の概要】