孫の教育のために自分の退職金を使いたい
鈴木さん夫婦にとっては、待望の初孫です。とにかく目に入れても痛くないほどかわいい。また、近くに住んでいることもあってか、息子や嫁も頼ってくれていることが、鈴木さんには何よりもうれしく感じられました。
鈴木さんは、手元にある退職金2000万円(定年退職時に取得)の一部を何とか初孫の教育資金に充てたいと考えます。自分の生きてきた証である退職金で孫が十分な教育を受けられたら、どれほど幸せなことか。孫が大学を出るまで生きていられたら、「おじいちゃん、ありがとう。おじいちゃんのおかげで大学を卒業することができました」と、この上なく幸せな言葉を聞けるかもしれない――そんなことを夢見ていました。
金融機関からの提案を受け入れてみた
そんな思いが募る中、ふと目にした本に記載されていたある言葉が鈴木さんの目に留まりました。
「お孫さんの喜ぶ顔が見られるだけでなく、ご自身の相続税対策にもなります! 教育資金一括贈与がおススメです!」
鈴木さんの資産は預金4500万円のみで、自宅はこれまでずっとマンションを借り続けています。関東の郊外にある昔ながらの住宅地で、住民は減少傾向にあるものの、鈴木さんは地元のコミュニティーが好きでここを離れるつもりはありません。住み慣れたこの地を“ついのすみか”にしようと考えており、近くに住む息子夫婦もそばで支えたいと考えているようでした。
そんな息子夫婦の気持ちに応えたいこと、また、自身にも相続税対策が必要だと金融機関から提案されていることから、鈴木さんは教育資金一括贈与をしようと考えます。
金融機関からの提案があってから1カ月熟考し、最終的には非課税限度額の1500万円を教育資金として一括贈与することを決断。金融機関で手続きをすることになりました。もらう側の孫は生まれたばかりであるため、法定代理人である息子夫婦が契約に同席しました。実際に贈与が実行完了した際には、息子夫婦は非常に喜んでくれ、嫁は感極まって涙さえ流してくれたそうです。鈴木さんにとって、心から贈与してよかったと思えた瞬間でした。
これで、初孫には十分な教育を受けさせてあげられる。「おじいちゃん、ありがとう」と言ってもらえる。鈴木さんはとても満たされた気持ちになりましたが、これが悲劇の始まりでした。
●後悔してもしきれない事態に… 続きは後編【「孫の役に立ちたい」一心が後戻りできぬ悲劇に…悔やまれた祖父の判断】で紹介します。