振り返ってみると、企業年金の運用担当者の仕事の大半は、「聞く」という作業だったと思います。

■投資しているファンドの運用成績や状況を運用会社や信託銀行から「聞く」
■新規開拓を目指す担当者からファンドの売り込みを「聞く」
■セミナーなどで金融マーケットの現状や最新の運用手法について「聞く」

こうした「聞く」に代表される運用現場のあり方や手法を、大きく変えてしまったのが新型コロナウイルスの世界規模での蔓延です。

1メートルの至近距離で面談

私が朝日新聞企業年金基金の常務理事に着任したのは2019年7月でした。着任早々、取引のある信託銀行、運用会社、コンサルタントといった人たちがひっきりなしに訪れます。

こういった方たちとは、基金が保有する運用資産の込み入った数字を確認しながら打ち合わせをしますので、会議室ではなく直接基金の執務室があるフロアまで上がってもらっていました。

ところが基金の執務室は手狭で、双方が着席するデスクは、向かい合うと1メートルあるかないか。「ソーシャルディスタンス」とはどこの話? といった状態で、今振り返るとぞっとするような至近距離でした。

信託銀行や運用会社から怒涛の「四半期報告」

面談の中で最も頻度が多く、重要なのが運用会社や信託銀行などによるファンドの「四半期報告」です。これは文字通り1年間を4分割して、それぞれの期間における運用成績や特記事項などの説明を受けるものです。当該期間が終了しておおむね1カ月半から2カ月したところで、各社の担当者が基金を訪れることになります。

7月下旬に着任した私が前任の常務理事から引き継ぎを受け、ぼんやりと基金のルーティンワークが見えてきたところで8月中旬に短い夏休み。これが明けたところで、4月から6月末までの「第1・四半期」の報告会の日程がどっと押し寄せてきました。

当時、私の基金では800億円を超す年金資産を40数本のファンドに分散投資していました。①債券②株式③ヘッジファンドや不動産などのオルタナティブ④生命保険会社の合同運用である一般勘定――といった内訳です。

基金の総幹事と呼ばれる信託銀行などは、1行で10本前後のファンドを預かっていて、1回でまとめて報告を受けます。それでも、合計20回程度の報告会をこなさければなりません。この日程調整が一苦労です。

また、報告会は慣れれば1回1時間前後で終わりますが、着任したばかりの私は、次から次に飛び出してくる専門用語、とりわけ横文字に翻弄され、2倍の時間がかかったり、ファンドによっては再度、説明してもらったりしたこともありました。

そうして「第1・四半期報告」を聞き終わったと思ったら、いつの間にか10月。もう次の7月から9月末までの「第2・四半期報告」がやってくるんです。