投資には全く無縁なまま企業年金の担当に
今回は初回ですので、私自身が企業年金の資産運用を担当することになった経緯や、運用で得た経験をご紹介します。
プロフィールにありますように、私は新聞記者として朝日新聞社に入社しました。地方支局での事件事故取材から始まって、紙面編集や経済畑の取材記者を長く務めました。経営企画や不動産子会社の経営なども経験しましたが、株式や債券投資などとは全く無縁でした。
そもそも新聞社自体が銀行借り入れもほとんどゼロで、資産運用は御法度。まして、記者は機微に触れる情報にも接しますので、インサイダー規制に抵触する恐れも大きい。資産運用とは相当距離のある世界に暮らしていました。
そうはいっても、退職金由来の企業年金基金はあります。誰かが資産運用を担当しなければなりません。朝日新聞では従来、経済部で金融や証券などを取材した経験のある記者出身者か、退職金制度に精通しているはずの人事部の経験者などが基金の常務理事に就任してきました。多少の「土地勘」はあるだろうという理由だったと思います。私も、経済取材をしたのは随分前のことでしたが、「昔取った杵柄」的な扱いで2019年夏、不動産子会社から基金に移りました。
1人で数百億円を運用
基金に来て驚いたのはスタッフが少人数で、資産運用を担当しているのは事実上、常務理事1人であること。そして、その1人が巨額の資産を数多くの運用商品に分散して投資していることでした。
当時、朝日新聞の売上高(単体)は約2400億円で社員は約4200人。一方、朝日新聞企業年金基金の資産は約820億円ありました。基金には資産運用委員会という組織があり、新聞社本体の財務部門や総務部門の幹部も入って、年金資産の運用についてさまざまな協議をする仕組みになっています。ただ、運用商品の購入や解約などを検討し、原案をつくり、実行するのは常務理事1人です。
運用商品は債券、株式、ヘッジファンド、不動産など多岐にわたり約50本ありました。投資の経験は皆無でしたので、ファンド担当者の「顔と名前」を覚えるだけでも3~4カ月かかりました。しかも、これら1本ずつの運用成績を毎月、基金の代議員会や資産運用委員会のメンバーにメールで報告しなければなりません。3カ月に1度は運用会社から四半期報告を受けます。
この四半期報告がくせもの。「前期比マイナスですが、ベンチマーク対比ではプラスなので勝っています」とか。「デュレーション」とか「キャリーロールダウン」とか。