事例検証① 田中さん(仮名)のケース
<家族構成>
夫 55歳 会社員 年収約1200万円(額面・ボーナス込み・上昇率1%想定)
妻 52歳 パート 年収約60万円
子 長女:22歳(私立大学4年)、長男:20歳(私立大学2年)
<教育資金>
大学卒業までの資金は出してあげたい
結婚時はそれぞれ100万円くらい用意してあげたい
<住宅等資金>
持ち家:戸建て、ローン残10年(約1700万円)、リフォーム費10年ごとに100万円計上
自動車:70代半ばまでは使う見込み、買い替え費8年ごとに200万円計上
<老後資金>
60歳定年時に退職金約2300万円が入る予定
<現在の金融資産>
預貯金:約1500万円
その他:約1500万円(会社持株会700万円、その他株式700万円、投信100万円)
田中さんは、もともと当社の資産運用相談に来られたお客様です。すでに複数の銀行やIFAで相談されていて、さまざまな商品を提案されたものの、どれがいいのか分からないということで相談にいらっしゃいました。「いま投資している株や投資信託よりもいいものはないか?」という質問をされたのですが、「キャッシュフロー分析をしてからでないと運用の話はできない」とお答えし、まずキャッシュフロー分析をすることになりました。
その結果、田中さんの資産は80歳でなくなってしまうことが分かりました(図1)。高収入ではありますが、その分、贅沢な暮らしが身についてしまっていたのでしょう。退職金を加味しても、老後のお金が足りなくなることが分かりましたので、いくつかの改善策を提案しました。
改善案①
まずは、すぐに「資産運用で何とかしよう」と考える前に、出ていくお金に本当に無駄がないのかを見ていきました。ただし、お小遣いや食費などを削るのはなかなか難しいので、まずは固定費から見直します。
実際に田中さんに提案したのは、金利の高い住宅ローンの返済と、通信費と保険の見直しです。この3つを見直すだけで、月々の支出を3、4万円減らすことができ、結果として80歳でなくなるところだった資産が87、88歳くらいまでもつシミュレーション結果となりました。
このように、毎月費用がかかっていて、手続きは面倒でもずっとかかるものから着手していくのがポイントです。固定費以外の見直しに着手するのは、固定費の見直しだけでは間に合わなかったときだけにしましょう。
改善案②
次に、資産ポートフォリオの見直しを提案しました。その結果、2%の運用成績を出すだけで、資産がマイナスにならずにすむことがわかりました。ただし、このシミュレーションは資産の一部ではなく、「資産全体」を2%で運用した場合の結果ですので、たとえ2%でも実際にはなかなか難しいでしょう。投資に慣れて、より多くの資産を運用に回せるようになることで、結果を出しやすくなると思います。
改善案③
3つ目に、退職後の再雇用を検討していただくことを提案しました。田中さんご自身は、定年後はそのまま退職することを考えていたようですが、老後は毎日が日曜日になってしまうので、意外にやることがなくなってしまうもの。新しく趣味を探したり、ボランティアやアルバイトをしたりする方もいますが、ならば再雇用を検討してみてもいいのではないでしょうか。例えば64歳まで年収340万円(額面)で働くだけで、94歳まで資産がもつシミュレーション結果となります。さらに再就職した上で資産運用をすると、かなり余裕が出てきます。
このように、運用商品だけではなく、全体を見てからアドバイスすることで、現実感が増してくると思います。一方で、キャッシュフロー分析も絵に描いた餅でしかありません。状況は常に変わる可能性がありますので、都度シミュレーションし直すことが大切です。そのシミュレーション結果によって、運用方針の見直しが必要な場合もあるでしょう。こういうことをご自身で管理していくか、相談できるパートナーを見つけるのがいいと思います。