運用成績や品質管理、差別化など運用会社の課題を指摘

では、資産運用業高度化プログレスレポート2022年では、何が課題として取り上げられているのでしょうか。

ポイントは、①経営体制、②プロダクトガバナンス、③目指す姿・強みの明確化、です。

経営体制で強調されているのは、やはり資産運用会社の独立性です。「資産運用会社にとっての顧客は、販売を委託する先ではなく、投資家であることを改めて認識し、金融グループにおける独立性を確保することが重要」と、レポートで指摘しているように、過去、金融グループの親会社が証券会社、銀行の場合、そこに利益をもたらすような商品戦略を取っているケースが見られたため、それを回避するために、資産運用会社各社がどういう取り組みを行っているのかについて確認しています。

プロダクトガバナンスは、要するに運用商品の品質管理のようなものです。国内株アクティブファンド444本を対象にして、アクティブ運用の付加価値であるアルファ(ベンチマークに対する超過リターン)を推計したところ、444本中32本のアクティブファンドのアルファ推計値がマイナスになったとされています。これは、パッシブ運用よりも運用成績が悪いことを意味します。

かつ、アルファ推計値がマイナスになったもののうち、下位15本を抽出したものに関しては、特に大手の投資信託会社が多く、なかでも改善に向けた対応が困難と思われる「不芳ファンド」が20年前後も運用されている点について、プロダクトガバナンス体制に大きな問題点があると指摘しています。不芳とは、要するに「芳しくない」という意味で、言い換えると「どうしようもないファンド」ということです。

また、これは酷いと思われた件としては、日本株アクティブファンドの社内のパフォーマンス評価で、分配金再投資の基準価額を、TOPIXの配当抜き指数と比較して、10年以上の長期にわたって「超過リターンが出ている」と誤認していた事例です。分配金再投資の基準価額と比較するなら、配当込み指数で比較するのが常識であり、そのような誤認が長年にわたって生じていたのは、自社のプロダクトの品質管理がなっていないという典型的な事例といっても良いでしょう。

目指す姿・強みの明確化については、「各社が選択と集中により、注力する分野において創意工夫を凝らすことで、目指す姿を実現し、競争力の強化に繋げていくことにより、他社との差別化を図っていくことが必要」とレポートで指摘されていますが、そのくらい日本の投資信託会社にはあまり特徴がない、と読み取ることができます。

「何でも揃っている」のは、逆に言えば「強みがない」のと同義です。長年にわたり、明確なポリシーを持たず、ただ手数料を稼ぐために、さまざまなタイプのファンドを設定・運用してきた弊害が、ここに来て問題視されているのではないでしょうか。

溜まっている膿が多いだけに、同レポートに指摘されている形で資産運用ビジネスの高度化が実現するには、かなりの時間を必要としそうです。