国内だけで制御し切れない外的要因によるインフレ危機

外的要因に端を発したインフレが起こると、金融政策の選択肢は極めて限られます。教科書的に言うと、物価上昇を鎮静させるためには金融引き締めが有効策ですが、目下、日本が見舞われている物価上昇を鎮静させるのに金融引き締めは良策ではありません。

もし日銀が、それでも金融引き締めを実施したら、国内景気は間違いなく腰折れします。いま国内景気は最悪期ではないものの、力強い上昇局面かと問われれば、それは疑問です。そのような状況下で利上げを行えば、景気後退局面に真っ逆さまです。

かといって、利上げをすればまた別の問題が生じてきます。それは1000兆円を超える長期債務残高です。長期債務残高は将来、税収で返済する必要のある国の借金ですが、利上げを行えば長期債務残高に生じる利払いも大幅に増加します。これまで野放図にしてきた財政赤字が、いよいよ牙をむいてくるのです。

利上げが困難な状況下でインフレが続けば、円の価値は減価する一方になります。これを外国為替市場の論理で言えば、価値が減価する通貨は売られますから、さらに円安が進み、インフレを加速させることになります。このような連鎖が現実のものになったら、日本経済は悪性インフレに陥ります。

記事では、「賃上げが進まず、家計が値上げを受け入れない」ため、23年度の物価上昇は0.8%に鈍化するとなっていますが、外的要因によるインフレが加速するなかで個人が値上げを受け入れられず、企業もそう簡単に価格転嫁できないとなれば、企業の利幅はさらに減少し、企業業績は悪化します。それは回りまわって家計にダメージを与え、さらに個人消費が冷え込むという悪循環を生じさせます。

この極めて厳しい状況を解決しようとしても、もはや国内向けの政策だけではどうにもならないほど、日本経済は隘路にはまってしまった感があります。この物価上昇は、誰にも喜べるものではないのです