ウクライナ危機と円安に起因する喜べない足元のインフレ

日本経済新聞社が民間エコノミスト10人に今後の物価見通しを集計したところ、全国の消費者物価指数の上昇率は当面2%台で推移し、10月に2.2%まで高まるということでした。

しかし、このインフレを私たちは素直に喜ぶわけにはいきません。旺盛な設備投資意欲と個人消費意欲に支えられた好景気による物価上昇ならまだしも、今の物価上昇はロシアのウクライナ侵攻と、日本にとっては円安が大きな原因です。資源価格そのものの価格急騰に加え、日本にとっては円安が資源価格の円建て価格を押し上げます。

加えて、ロシアとウクライナが世界有数の穀倉地帯であることも、物価上昇に拍車をかけるのではないかと懸念されています。現状、日本の小麦輸入は米国産、カナダ産、豪州産で賄われているため、ウクライナ産やロシア産小麦の流通が戦乱で滞るリスクは回避できていますが、今後、ウクライナ情勢が深刻化した場合、小麦の市場価格が急騰し、その影響を受ける恐れがあることは否定できません。

いずれにしても、今の物価上昇は国内の設備投資意欲や個人消費意欲の高まりという内的要因ではなく、ウクライナ・ロシア紛争と、西側諸国によるロシア制裁とロシアの対抗、そして円安という外的要因によって醸成されており、ここに日本国内のインフレをコントロールする難しさがあります。

国内の景気過熱によるインフレであれば、日銀が金融引き締めを行うことで鎮静させることも可能ですが、地域紛争や円安はいずれも日銀のコントロール下における問題ではありません。

また円安を鎮静化させるには、財務省が外貨準備として保有している米ドルを売るしかありませんが、それは外貨準備高の範囲内での米ドル売り介入しかできないことを意味します。そこを見透かした投機筋が全力で円売りを行ったら、止めどもなく円安が進行する恐れがあります。それはまた、国内のインフレが加速するリスクがあることを意味します。

仮に、それが現実のものになったら、日本にとっては悪性インフレ以外の何物でもありません。国内景気がほとんど回復しないなかでのインフレ昂進は、スタグフレーションそのものです。