7月31日、特例の経過措置が終了し、保険証がマイナンバー保険証(オンライン資格確認システム)」へ完全一本化される。今後2か月強にわたり、医療機関の受付や企業の社会保険手続部門では、移行に向けた最終段階の対応や利用者・従業員への説明に追われることだろう。
21年9月に発足したデジタル庁の後押しもあり、デジタル化関係の法整備が多数予定されている。既に内容や実施時期が確定した例を表に抽出したが、これ以外にも審議や事務対応の途上にあるものや、施行時期が未定なものが相当数みられる。
とはいえ実態としては、全ての局面であらゆる人々にとって利便性が高まるとは言い難い。
まず、事業者のデジタル化に対応するための投資が負担となろう。
Windowsのサポート終了に見られるように、ただでさえデジタル機器は一定頻度での否応なしの設備投資、メンテナンスが必要となり、加えてサイバー犯罪被害の予防措置、人財確保や訓練実施などが積み重なり、負担は重い。民間事業者の設備投資に占める情報化投資比率は、80年代の一桁台%から94年以降は10%を超え、新型コロナの感染拡大に見舞われた20年にピークに達した後も高止まりしている。不動産なども含めた設備投資全体の2割弱は、かなりの水準と言わざるを得ない。
こうした負担は、特に中小企業や小規模企業者にとって相対的に重くのしかかる。新型コロナの収束後も、事業規模別の利益率格差はむしろ広がっている。
利便性を高めるための情報化対応がかえって負担を強いることとなれば、結果としてスケールメリットが働かない小規模企業者などの設備投資や商品開発に支障をもたらしかねない。負担増を機に、廃業や事業の売却を選択する動きも生じることだろう。実際に、22年9月に愛知県保険医協会が公表したアンケート結果では、医療機関である回答者の12.4%が「電子カルテの導入が義務化されれば廃業せざるを得ない」と返答している。結果として、資本の寡占化が進む事態が見込まれる。
既に人口減少に入って久しい中、人手不足に悩む事業者は多く、働き手の年齢も上昇し続けている。平均年齢だけを抜き出してみても一直線の上昇傾向が認められ、前世紀末と比較して男性で4.6歳、女性で5.6歳上昇している。
自然の理として、人は加齢に伴って徐々に健康を失っていく。平均年齢が今後も上昇し続ければ、通勤負担等の軽減ニーズが強まることだろう。従って、デジタル化と相まって自宅などでのリモートワーク化の更なる進行が見込まれる。
自身の加齢とともに、親族の介護という要因もまた、デジタル化を伴うリモートワーク化を強力に推進するだろう。公的介護保険制度が始まった2000年12月時点では、要介護・要支援の認定者は249万人強にとどまっていた。だが高齢化が進んだ25年12月時点では、3倍弱の736万人強まで増加している。
介護を行っている側の年齢に注目すると、45歳から増え始め、65歳の定年前に当たる64歳までで過半数を占める。平均年齢に到達して各職場で主戦力となる頃、そのうちの相当数が親族の介護世代に重なる実情が窺える。
地方の中堅市町村に住んでいると、防災行政無線を活用した徘徊高齢者など行方不明者の捜索依頼を高頻度で耳にする。行方不明者届を警察が受け付ける対象者は原則として親族に限られ、捜索に先立って衣服・過去の徘徊歴・既往の病歴などを尋ねられるほか、保護(発見)後の引渡しなども親族が基本だ。
介護施設への入居後にも、大部分を親族が占める身元引受人には、ケア方針の確認や下着・衣類の補充などのため、平均で月1~2回程度は施設側との応対が求められることが珍しくない。
こうした状況を背景に、2022年の調査では、「過去5年の間に介護・看護を理由に離職した者」が47万4,000人に及ぶ。22年の就業構造基本調査では、介護離職者の再就職率が全体の30.67%にとどまり、年齢が上がるほど困難であることが報告されている。
リモートワークの導入や実施状況には、「大手>中小」の顕著な傾向が認められる。25年の調査では、従業員1,000人以上の規模の会社の3分の2超で在宅勤務が制度化されている一方で、29人以下で制度化されている会社は1割に満たない。
親を取り巻く環境の変化により、過去40年間で初産 の平均年齢は 約5年伸び、2015 年以降、30 歳を超えている。22年時点の第1子出生時の母の平均年齢は30.9歳となっている。
少子化傾向の下での出産年齢の高齢化は、要介護・要支援の認定までの時間が短くなることを意味する。こうした中で職業選択にあたっても「親族の介護のためのリモートワークが可能な大手」を選択する志向が強まる事態が見込まれる。
世界で初めて65歳以上人口が全人口の21%を超える超高齢社会に日本が突入したのは07年のこと。それから、既に約20年が経過している。今後も被介護者のさらなる増加が予想される中、大学進学時に理系学部を選択・進学してシステムスキルなどを身に付け、東京など大都市に本社のある大手企業に就職し、親族への介護対応などが求められた際には実家やその近辺でリモートワークを行うといった選択を志向する割合が高まると考えられる。
23年6月に「自然科学(=理系)分野を専攻する学生の割合を現状の35%から5割程度まで引き上げる」ことを含む第4期教育振興基本計画が閣議決定されたことも、理系選択を後押ししよう。また、人口減に悩む自治体などが、親族の介護のための移住者や二拠点生活者を呼び込むための定住支援策を実施することも見込まれよう。
こうしたマクロ的な動きが、総人口がなお減少し続け、人手不足の事業者が多い中で、静かに着実に続くことだろう。「進学・就職時などに大都市を選択→加齢に伴って実家近辺へ」という生活様式が定着することで、中核市に代表される中堅的な都市での定住が選ばれにくくなる事態を見込む。
中核市は、地方自治法に基づいて国から指定を受け、都道府県から保健・福祉・都市計画など多くの事務権限が移譲された人口20万人以上の市だ。26年5月現在、全国で62箇所が指定されている。
この中核市の人口動態を住民基本台帳から追いかけ、05・15・25年時点の人口を比較した。平成の大合併のピークとなった05年ほか、合併の有無も参照した。
結果は、合併による人口増が反映されなかった15年から25年までの期間で、全体の8割を超える52市で人口減が認められた。増加した10市は、全て「1都3県」「名古屋都市圏」「大阪都市圏」の3領域に含まれる府県に立地していた。
こうした趨勢からも、中長期的なマクロ動向として、デジタル化の進展が中堅都市からの人口流出を加速させる事態が予測できる。営業地域の自治体などを公共セクターとして与信管理対象としている金融機関は多いだろうが、中長期にわたる人口減少が実質公債費比率などに与える影響は小さくないと考える。

