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未来予想図

【プロが解説】「アンソロピック・ショック」とは?AIがSaaSを使う側に回り、揺らぐ課金モデル

末山 仁
末山 仁
コモンズ投信運用部シニア・アナリスト
2026.04.01
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【プロが解説】「アンソロピック・ショック」とは?AIがSaaSを使う側に回り、揺らぐ課金モデル

日本の新しい国づくりに向け“変化を始めた企業”、“変化にチャレンジする企業”を中心に、中長期的な視点で厳選した国内株式を主な投資対象とする、コモンズ投信のアクティブファンド「ザ・2020ビジョン」。その月次レポートから、アナリストによるコラムをご紹介します。
※本稿は「ザ・2020ビジョン」月次レポート(作成基準日 2026年2月27日)内『未来予想図』を転載・再編集したものです。

AnthropicのAIエージェント発表でSaaS株急落、AIがSaaSを使う可能性に市場が反応

「アンソロピック・ショック」は、「SaaS(Software as a Service、サース)ショック」「SaaSの死」「AIディスラプション(破壊的変化)」とも呼ばれ、米AI新興企業Anthropicが発表した一連の生成AIエージェントツールを契機に、グローバルでSaaS関連株が急落した事象です。

発端はAnthropicが業務用AI「Claude Cowork」に11種の拡張機能を実装したと発表したことでした。一部のホワイトカラー業務で人間の生産性を大きく上回るケースが確認されたとしてSaaS株が急落。米国株式市場では1日で約42兆円(2850億ドル)の時価総額が失われたと報じられました。さらに、開発者向けA I「Claude Code」がCOBOL言語によるレガシーシステム※1の自動モダナイゼーション※2を可能にしたと発表。ここでも人間の 作業効率を大きく上回る事例が示されたことで、IBM株が急落を余儀なくされました。

市場の懸念の本質は、「生成AIはSaaSの顧客ではなく、競争相手になるのではないか」といった構造変化への不安にありそうです。生成AIが実験段階を経て、産業基盤として実装の段階に入ったとの認識が一気に広がった点が、このショックの特徴と言えそうです。言い換えれば、単なる技術進化ではなく、生成AIの活用により「知的労働の自動化が想定以上に早く進む」という再認識が起きたともいえます。

Anthropicは、OpenAI出身の研究者らが2021年に設立した米国のAI企業で、安全性や信頼性を重視した 対話型AI「Claude」を展開しています。OpenAI、Google、Microsoftと並ぶ生成AI競争の中核プレイヤーの一社です。

今回発表された「Claude Cowork」は、従来の質問応答型AIを超えて、自律的に業務を遂行する生成AIエ ージェントで、自然言語の指示だけで計画立案から実行までを行い、外部サービスとも連携することが可能です。最大のポイントは、「AIがSaaSを使う側に回る」点にあります。これにより、SaaSのID(ユーザー数)課金モデルはその前提が揺らぐ可能性が指摘されています。AIが大量のタスクを処理する世界では、SaaS企業の収益の単位が「人(ユーザー数)」から「利用量」や「成果(価値)」へ移行する可能性があるためです。

影響が想定される領域は次の通りです。

①SaaS産業:ID課金モデルの予測可能性が低下し、利用量・価値ベース課金への再設計が進む可能性。

②ホワイトカラー業務:法務、財務、営業、人事、サイバーセキュリティなどで自動化が加速する可能性。

③IT投資配分:ユーザー企業の生成AI投資への増加により、既存SaaSへの予算が圧迫される可能性。

④ITサービス産業:COBOLなどレガシーシステムのモダナイゼーション自動化により、従来型ITサービス企 業の収益機会が縮小する可能性。

SaaS企業にとっての「アンソロピック・ショック」は、単純な「生成AIによる代替」ではなく、「生成AIと の共存に乗り遅れるリスク」のようです。投資家の視点からは、SaaS企業のID課金モデルが利用量・価値ベースへ移行すれば、キャッシュフローの予測可能性は低下し、企業価値評価の前提も変化する可能性があります。また、生き残りのためには生成AIを自社の収益モデルに統合できるかが重要で、価格モデルの再設計力、独自データ資産の有無、外部との提携力などが企業選別のポイントとなることが考えられます。

※1:古いプログラミング言語、アーキテクチャなどで構築され、現状のビジネス環境や技術水準への適応が困難になった情報システム、※2:古い基幹システムを現代的な技術や設計に置き換えること

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著者情報

末山 仁
コモンズ投信運用部シニア・アナリスト
山一證券に入社し経済研究所では企業データ(業績数値、株価)分析、投資顧問では年金の株式・債券による運用業務に従事。山一證券廃業後、富士信託銀行(現みずほ信託銀行)に入社。外国株式インデックス運用のファンドマネージャー業務のほか、アナリスト業務、個人向け信託商品の企画管理運営業務を経験。2016年2月にコモンズ投信に入社。
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