輪郭の曖昧なシマウマ
岸田政権下で政府が策定した「資産運用立国実現プラン」は、「成長と分配の好循環」の実現を目指し、投資マネーの流路であるインベストメントチェーンを構成する各主体が担う機能の高度化・効率化を図るというストーリーを描いていました。
インベストメントチェーンを構成する主体とは、銀行や証券会社などの販売会社、資産運用会社の他、企業年金などのアセットオーナー、システムベンダー、個人投資家など、金融庁が直接的な監督権限を持たない分野も含まれています。
岸田政権下ではNISA拡充など、資金の出し手にフォーカスし、より多くの投資資金が「好循環」の流れに取り込まれるよう後押しする政策措置が優先的に進められてきました。石破政権以降は、「投資立国(投資大国)」というスローガンの下、資金の受け手側に着目し、投資資金の向かい先のコントロールを強化する措置の方へと重点が移っています。
こうした経緯を踏まえて「地域金融力強化プラン」の前半部分を読むと、地銀など地域金融機関だけでなく、インベストメントチェーン上のさまざまなプレイヤーに対し、連携・対応を呼び掛ける部分に、既存路線に対する現政権のスタンスを窺い知ることができます。
「(企業の成長を後押しするファイナンスの手法について)エクイティ(資本性資金)やメザニン融資、社債調達等、一般的な融資にとどまらない手法を、証券会社やファンド、政府系金融機関とも連携して提供していくことが必要となる。地域金融機関自らも、こうした内外のプレイヤーと連携する中で事業戦略やファイナンス手法に関する知見を高めつつ、後述の投資専門会社に係る規制緩和も活用してエクイティの供給やM&Aの支援に積極的に取り組み、さらに、こうしたことが可能となる人材の獲得・育成を行うことが重要である」
このように、地域金融機関を「地域金融力」発揮の主体と位置づけつつ、証券会社を含め、広義の資産運用業界、さらには行政とも連携し、各地の企業の成長を後押しするよう呼び掛けています。
先の部分だけでは、具体的にどのような企業を支援すればよいのかハッキリしませんが、政府側の狙いを見究めるヒントとなるのが、「ローカル・ゼブラ企業」への「インパクト投資」に言及した次のくだりです。
「一定の投資収益の確保を図りつつ、社会・環境的効果(インパクト)の実現を企図するインパクト投資は、社会・環境課題の解決を後押しする取組としても期待されているが、地域課題をビジネスの力で解決しながら、社会的インパクトと事業収益を継続的に両立する地域に根差した企業である「ローカル・ゼブラ企業」への成長支援においても、活用が考えられる。インパクト投資も活用し、日本の各地域において数多くの「ローカル・ゼブラ企業」を生み出していくとともに、地域内外のステークホルダー(長く地域に貢献してきた地域の老舗・中核企業、社会的インパクトに共感する大企業等)との事業連携や資金・人材面での協力を進め、エコシステムの強化を図っていくことが重要である。
「インパクト投資」は、広義のサステナブル投資の一手段と位置づけられますが、プランの説明にもあるように、社会的・環境的な課題を解決する「インパクト」の実現と、投資収益の確保の両立を目指すところに特徴があります。
同じくサステナブル投資の一分類であるESG投資については、米トランプ政権の復活後に逆風が強まっている一方、インパクト投資のコンセプトは各国の政治情勢に比較的柔軟に適応しやすい性質があり、日本でも存在感を高めています。
「ローカル・ゼブラ企業」は、ユニコーン企業からの連想で生み出された概念で、成長一辺倒ではなく、課題解決と収益の両立を目指し、群れを作って行動するシマウマのように、他のプレイヤーと連携して行動する企業といった意味合いがあります。
インベストメントチェーンの各主体が連携して、インパクト投資を通じて支援することが求められているローカル・ゼブラ企業とは、具体的にどのような企業なのか――もちろん、社会から隔絶され孤島のように存在する企業はあり得ないので、どのような事業者も多かれ少なかれ、他のプレイヤーと連携して活動する“シマウマ的”な性質を持っているはずです。穿った見方をすれば、「ローカル・ゼブラ企業」という概念を輪郭づける定義の曖昧さは、各事業者において「何が政策目的に合致するか」と、行政の顔色を窺ったリソース配分を促す力学として働くことにもなりそうです。

