finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
金融専門の公認会計士が示す 攻めの金融商品会計のアイデア

組合で保有する非上場株式の時価評価容認へ

岡本 修
岡本 修
新宿経済研究所 代表社員社長 公認会計士
2025.03.25
会員限定
組合で保有する非上場株式の時価評価容認へ

我が国における金融商品会計基準は、基本的に、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する『金融商品に関する会計基準』(以下「基準」)や『金融商品会計に関する実務指針』(以下「実務指針」)、および各種Q&Aや時価算定に関する会計基準・適用指針、さらには各種実務対応報告などから構成される複雑な体系だ(※ちなみに実務指針に関しては、従来は日本公認会計士協会が策定していたが、2024年7月1日にASBJに移管されている)。

これらのうち、大元の基準自体は1999年に当時の企業会計審議会が公表したものがベースとなり続けており、規定の細かい改廃はあったにせよ、ベーシックな骨格の部分は変わらない。その間、2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻経営破綻に端を発する世界的な金融危機で国際財務報告基準(IFRS)などの規定は大きく変わったが、我が国の金融商品会計基準に関していえば、基本的にはそのまま引き継がれている。

この会計基準自体、当初はいわゆる「会計ビッグバン」の一環として公表され、取得原価主義会計を基礎とする『企業会計原則』になじんでいた我が国の会計基準に「革命的な」変化をもたらすといった見解に加え、「我が国に時価会計は馴染まない」などの批判的意見も見られたが、ふたを開けてみたら、我々はこの会計基準をすでに四半世紀も使い続けている。そして金融商品会計は長く使われ続けているだけあって、さまざまな改正がなされている。

こうしたなか、そのもっとも新しい改正が、ASBJが今月11日に公表した実務指針の改正だ。これは、非上場株式を組み入れたファンド(組合出資)において、これらの非上場株式が時価評価されている場合、これらの時価評価差額をそのまま取り込むことを容認するというものであり、改正内容としては非常にシンプルだが、金融商品会計基準を長く使い続けるうえでは必要なものだといえる。

現行の会計基準の体系

今回の改正、内容としては非常にシンプルだが、その前段階として、まず、現行金融商品会計における時価会計の考え方を確認しておきたい(図表1)。

図表1 時価評価の考え方

出所:著者作成

簡単にいえば、その金融商品が有価証券の場合は保有目的区分ごとに時価評価する場合と時価評価しない場合に分けられる。また、デリバティブについては基本的には時価会計の対象とされ、ヘッジ会計の適用が認められる場合でもこれは変わらない(ただし、特例・振当処理が認められる場合などを除く)。その一方、有価証券やデリバティブと異なり、金銭債権債務は原則として、時価会計の適用対象からは除外されている。

市場価格のない株式は原則として取得原価により評価される

さて、図表1でも見た通り、有価証券については一部の保有目的区分を除き、時価会計の対象とされているのだが、ここで、いくつかの留意点がある。

そのひとつが有価証券に関する「市場価格のない株式の取扱い」だ。

ASBJが2019年7月に『時価の算定に関する会計基準』を公表したことなどにより、時価そのものの定義や適用方法などに関する規定は基準や実務指針から現在は削除されているが、「市場価格のない株式」に関しては、現在でも規定として残されている。基準第19項には、こんな規定が設けられている。

市場価格のない株式は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。市場価格のない株式とは、市場において取引されていない株式とする。また、出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものは、同様の取扱いとする。これらを合わせて「市場価格のない株式等」という。

すなわち、この基準第19項の規定が存在するがために、非上場株式などに関しては時価会計の対象外とされ、たとえば保有目的区分が売買目的有価証券やその他有価証券などであったとしても、基本的には時価評価差額は生じず、原則として取得原価により評価される。

組合出資の会計処理

一方で、もうひとつなじみが薄いのが、組合出資の会計処理だ。

民法組合や商法の匿名組合(TK)、投資事業有限責任組合(LPS)、有限責任事業組合(LLP)、およびこれらに類する外国の契約については「組合出資」と定義される。実務指針第132項によると、組合等の財産の持分相当額を出資金または有価証券として計上し、組合等の営業により獲得した純損益の持分相当額を当期の純損益として計上することが求められる(図表2)。

図表2 組合の会計処理に関する実務指針132項の記述

出所:著者作成

また、会計処理の方法としては純額法や総額法など3つの方法があるが(実務指針第308項、図表3)、税額控除などの都合上、原則的方法である「純額法」は忌避される傾向にあるようだ(著者私見)。

図表3 組合の会計処理

出所:著者作成

いずれにせよポイントは、組合出資は株式等と異なり、組合そのものの営業の成果を出資者が自身の決算に取り込む、という会計処理である。これについては組合が多くの場合、「法人」ではなく、したがって法人に対する出資である株式と異なり、組合に対する出資については、出資者があたかも直接、組合の営業に関与しているかの会計処理を採用するものだと考えればわかりやすいかもしれない(著者私見)。

組合で株式を保有していたとしたら?

以上より、仮に組合が株式を保有していた場合は、その株式が上場株式であれば、投資家側も出資持分に応じて、組合が保有する株式を、組合側の保有目的区分(売買、その他など)に応じて評価・処理すれば良いことになる。

ただ、ここで問題となるのが、ベンチャーキャピタルファンドやプライベートエクイティファンド等の場合、組合が保有する株式の多くは非上場である、という点だ。上述の通り金融商品会計上、非上場株式は時価評価対象外であるが(基準第19項)、現実にはいくつかの組合において、非上場株式の時価評価が行われているし、日本の会計基準が適用されない海外のファンドだと、その傾向はいっそう顕著だ。そうなると、出資者の側は、組合側で行われた非上場株式の時価評価を取り消す必要がある。あくまでも非上場株式に関しては、時価会計の対象外だからだ。

なぜそんな不整合が発生しているのかといえば、そのひとつが組合会計基準にある。

たとえば『投資事業有限責任組合契約に関する法律』第8条第1項に基づき経産省が2023年12月5日に公表した『投資事業有限責任組合会計規則』では、「投資は、原則として、時価を付さなければならない」、とする規定が設けられている(第7条第2項)。これが会計の不整合だ(図表4)

図表4 会計の不整合

出所:著者作成

改正内容のインパクトは限定的

冒頭でも触れた実務指針の改正は、こうした不整合を回避するためのものと考えられる。

具体的には、組合の会計処理について定めた第132項の次に、枝番付きの「第132-2項」以下いくつかの項を設ける、というものだ。

すなわち、非上場株式が組合側で時価評価された場合、一定要件を満たす場合にはその評価差額を出資者側において時価のある株式として取り扱い、評価差額の持分相当額を純資産の部に計上することが容認される(第132-2項)。

その際、減損ルールについても時価のない株式に関する規定(第92項)ではなく、時価のある株式に関する規定(第91項)に準拠することを求める(第132-4項)などのものであり、また、このような選択は組合毎に行うこととし、この非上場株式の時価評価という取り扱いを適用することとした場合には出資後に取りやめることはできない(第132-3項)、などとしている。

正直なところ、今般の改正による企業会計へのインパクトは限定的だろう。ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ出資がわが国の金融機関のポートフォリオにとって非常に大きな比重を占めているとは言い難いからだ。

ただ、ファンド側で非上場株式の時価評価を行っている場合、それをわざわざ取り消す処理を出資者側にて行う必要性がなくなったことは評価に値するといえるだろうし、こうした細かい改定も、会計基準を常にアップデートするうえで必要なものといえるだろう。

我が国における金融商品会計基準は、基本的に、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する『金融商品に関する会計基準』(以下「基準」)や『金融商品会計に関する実務指針』(以下「実務指針」)、および各種Q&Aや時価算定に関する会計基準・適用指針、さらには各種実務対応報告などから構成される複雑な体系だ(※ちなみに実務指針に関しては、従来は日本公認会計士協会が策定していたが、2024年7月1日にASBJに移管されている)。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #会計・税制
前の記事
リース会計がもたらす金融機能の低下リスク
2025.02.20
次の記事
バーゼルⅢ最終化で振り返る「規制強化」の歴史
2025.04.21

この連載の記事一覧

金融専門の公認会計士が示す 攻めの金融商品会計のアイデア

改めて確認するアセット・スワップ会計の実務

2025.06.25

未履行のコミットメントに適用するリスク・ウェイトは何%?

2025.05.20

バーゼルⅢ最終化で振り返る「規制強化」の歴史

2025.04.21

組合で保有する非上場株式の時価評価容認へ

2025.03.25

リース会計がもたらす金融機能の低下リスク

2025.02.20

リースのオンバランス化とリスク・アセットへの影響を探る

2025.01.22

銀行自己資本比率規制におけるデリバティブの扱いをまとめてみる

2024.12.23

クレジット・リンク商品のリスク・ウェイトとは?

2024.11.20

クレジット・リンク商品の金融商品会計の考え方

2024.10.22

仕組み商品「ルックスルー」の実務

2024.09.24

おすすめの記事

広島銀行の売れ筋トップ10から「S&P500」が消える。人気を高めているファンドの特徴とは?

finasee Pro 編集部

「支店長! 業績を上げるためにFP資格は必要ですか」

森脇 ゆき

三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」の評価が急落、評価を高めたファンドは?

finasee Pro 編集部

【新連載】こたえてください森脇さん
①販売した商品が値下がり。お客様の反応が怖くてアフターフォローできない。

森脇 ゆき

5カ月ぶりに純資産残高が過去最高を更新したものの資金流入は低調、パフォーマンスは「国内半導体株」がトップ=25年6月投信概況

finasee Pro 編集部

著者情報

岡本 修
おかもと おさむ
新宿経済研究所 代表社員社長 公認会計士
1998年 慶応義塾大学商学部卒業後、国家公務員採用一種試験(経済職)合格。中央青山監査法人(2000年)、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)(2002年)を経て、2006年にみずほ証券入社。9年間、債券営業セクションにて金融機関を中心とするソリューション営業に従事し、2015年に金融商品会計と金融規制に特化したコンサルティング・ファームの合同会社新宿経済研究所を設立、現在に至る。株式会社Stand by C顧問。公認会計士開業登録(2004年)。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
「支店長! 業績を上げるためにFP資格は必要ですか」
【新連載】こたえてください森脇さん
①販売した商品が値下がり。お客様の反応が怖くてアフターフォローできない。
広島銀行の売れ筋トップ10から「S&P500」が消える。人気を高めているファンドの特徴とは?
新プログレスレポートの気になるポイント3選……資産運用立国「ポンチ絵」はどう変わったか?
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」の評価が急落、評価を高めたファンドは?
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
アフターフォローはなぜ定着しないのか
「支店長! 正直なところ顧客本位と顧客満足の違いが分かりません」
大和証券の売れ筋トップ3でパフォーマンスが際立つファンドは? 
5カ月ぶりに純資産残高が過去最高を更新したものの資金流入は低調、パフォーマンスは「国内半導体株」がトップ=25年6月投信概況
【金融庁企画室長 今泉氏が語る】金融事業者に期待する地域貢献とプロダクトガバナンスの実践
新プログレスレポートの気になるポイント3選……資産運用立国「ポンチ絵」はどう変わったか?
「支店長! 業績を上げるためにFP資格は必要ですか」
国内株式型ファンドで過去3番目に大きな設定額を記録、野村アセットが設定した新ファンドの特徴とは? =25年6月新規設定ファンド
5カ月ぶりに純資産残高が過去最高を更新したものの資金流入は低調、パフォーマンスは「国内半導体株」がトップ=25年6月投信概況
【新連載】こたえてください森脇さん
①販売した商品が値下がり。お客様の反応が怖くてアフターフォローできない。
個人投資家の力で日本企業を変える──
マネックス・アクティビスト・ファンド、設立5周年
松本大氏が魅力を語る
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
アフターフォローはなぜ定着しないのか
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」の評価が急落、評価を高めたファンドは?
日本における「ターゲット・デート・ファンド」の成長余地
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
新プログレスレポートの気になるポイント3選……資産運用立国「ポンチ絵」はどう変わったか?
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
② 投信窓販において収益性と顧客本位をどう両立させるか
松井証券の売れ筋にみる優れた世界厳選株式ファンドとは? ピクテと三菱UFJの「純金ファンド」の違いは?
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら