J-FLECのアドバイス体制、見直しの予感?
12月18日に金融庁が「顧客の立場に立った良質な金融アドバイスの普及へ向けた環境整備に関する調査」報告書を公表した。本調査は、金融庁がエヌ・ティ・ティ・データ経営研究所に委託したもので、家計に良質なアドバイスが広く提供されるような環境整備を検討するため、米国・英国・豪州を対象に、家計に対するアドバイザーに関するビジネスモデルや制度等について調べたものである。
金融庁は、外部委託調査を不定期に行っており、委託先は金融庁の課題認識を踏まえ調査を行い、政策を提言するというスタイルが一般的だ。なお、表面上は委託先の提言となっているが、事前に金融庁と内容・文言を調整しているであろうことは想像に難くない。
ちなみに、昨年8月より本格稼働した金融経済教育推進機構(J-FLEC)の活動状況が見え始めているこの時期に、こうした報告書が公表されたことは興味深い。「近い将来、J-FLECのアドバイスの在り方を見直すことを示唆している!?」というのは、筆者の思い過ごしだろうか。
本報告書を読むと、まず、課題認識として以下の3つを掲げている。
- 日本の家計は現金保有割合が高く、運用割合は低位にとどまる
- 知識不足や不安感、教育やアドバイスが必要にも拘らず不足していることが投資に至らない理由と考えられる
- 金融アドバイスの提供者として期待されるブローカー、投資助言業、FPとも、アドバイスの質と量いずれかの観点で課題が存在している
これらを踏まえ、委託先が文献調査や有識者インタビューを実施し、米国のRIAやIBD、英国・豪州のIFA等の特徴や資格要件のほか、彼らが提供するアドバイス内容、各国のロボアドバイザーの状況などについて調査結果をまとめている。なお、英国や豪州では、アドバイスギャップが発生しており、その対策についても言及している。
こうした海外の実態を踏まえつつ、我が国の課題解決に向けて、報告書では以下の3項目を提言している。
- 投資助言業 → NISA等に限定した投資助言免許の新設(プレーヤー数を増加)
- FP → 投資助言業免許取得による業務範囲拡大の推進(ワンストップで相談~運用、調達や保険まで活動が可能)
- ブローカー → 投資一任口座の活用(フィービジネス化を進めることで利益相反的な関係を脱し、顧客に対しライフプラン等も踏まえた投資アドバイスに注力)
金融アドバイスが、それを必要とする方々に質・量ともに十分に提供されているとは言えない我が国において、これらの提言はどれも有益だと思う。現在、我が国では、法的要件や人的要件が厳しい投資助言業はアドバイスの質が担保されているものの、数が少なく収益性の観点から小規模法人や個人向けのビジネスが展開しづらい。また、(独立系)FPは質に関わる法規制が無く、アドバイスの品質にばらつきがあるほか、個別商品提案が出来ないことより収益性が低く、数も限られている。
一方、(FP資格を有する)ブローカーは数こそ多いが、大半は銀行、証券会社、保険会社に所属し、主に商品販売に付随するアドバイスによるコミッションが収益源となっており、アドバイスの質や中立性の観点で課題がある。IFAも一定数存在するが、大半がコミッションを収益源とするほか、所属制をとっていることもあり、やはり中立性に疑問符が付きやすい。
なお、似たような提言は、これまでも有識者から出されてきた。例えば、J-FLECが認定するアドバイザーに対し、NISA限定の商品提案を認めることについて市場制度ワーキングでも議論されたことがある(その時は、中立性の観点より立ち消えとなった)。
FPによる投資助言やブローカーによる投資一任によって、相談やガイダンスに留まらず、口座開設や銘柄選定(の支援)、購入後のフォローアップやリバランス(支援)をワンストップで行うことが出来れば、投資家の裾野が一気に拡大するように思うが、その場合、利益相反が課題となる。
このため、どのような利益相反があるかを分かりやすく「見える化」するとともに、各顧客の預かり資産残高に比例した手数料体系(フィーベース)を適用する等といった対策が求められる。
FA協会が自主ガイドラインを作成
なお、最近の「ふてほど」な大手金融機関による不祥事を踏まえると、徹底したコンプライアンス意識の醸成と性悪説に立った厳格なモニタリングが極めて重要であると実感しているが、それを金融庁が一手に引き受けるのは体力的に不可能であり、業界の自主的な取り組みが望まれるところだ。
こうした中、2024年10月に、IFAの業界団体である日本金融商品仲介業協会(FA協会)が、会員向けに自主的なガイドラインを策定・公表した。内容は「乗合取引(自社を通じて複数の委託証券会社の口座で行われる顧客取引)」、「自己取引(所属IFAによる金融商品取引)」、「兼業(所属IFAの副業)」に関し、具体的にどのような管理を行うべきかを記したものとなっている。
従前より、IFAのコンプライアンスやモニタリングは、主に所属する金融商品取引業者が担っているが、乗合取引等のチェックはIFA自身に委ねられてきたところであり、正直、どこまでチェックがなされているか不透明なところがあった。そのため、今回の業界団体によるガイドライン策定は小さな一歩ながらも大変好ましい動きだ。
なお、今後は、同協会において、このガイドラインが徹底されているか厳格にモニタリングする体制を構築することが大切であろう。現時点で、同協会のIFA会員は37社に留まっているが、彼らがガイドラインを遵守し、コンプライアンス意識の高さを示していけば、差別化が図れることになる。ほかにIFAが会員となっている業界団体としては、日本IFA協会や最近立ち上がった日本FA代理店協会などもあるが、彼らに対しても、よい刺激になるのではないか。