finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
未来予想図

【プロが解説】自動車業界で大変革進行中! EV、テスラ登場の裏で、修理人材不足が課題に

奥 翔子
奥 翔子
コモンズ投信 ジュニアアナリスト
2025.01.07
会員限定
【プロが解説】自動車業界で大変革進行中! EV、テスラ登場の裏で、修理人材不足が課題に

日本の新しい国づくりに向け“変化を始めた企業”、“変化にチャレンジする企業”を中心に、中長期的な視点で厳選した国内株式を主な投資対象とする、コモンズ投信のアクティブファンド「ザ・2020ビジョン」。その月次レポートから、アナリストによるコラムをご紹介します。
※本稿は「ザ・2020ビジョン」月次レポート(作成基準日 2024年11月29日)内『未来予想図』を転載・再編集したものです。

自動車業界では、100年に一度と言われる地殻変動が進行中です。今回はボディに焦点を当ててお話しします。

まず、自動車業界の大きな変化の一つとして挙げられるのがEV(電気自動車)の登場です。EVはバッテリーが非常に重いため、車体全体の軽量化が大きなテーマになっています。そのため、よく使用されてきた鋼材よりも軽い、アルミニウムを活用する方向性です。アルミよりさらに軽い素材として、マグネシウムが一つの候補ですが、リサイクルの難しさに加え、新地金供給の大部分を中国が占めている点が懸念事項です。

もう一つの大変革は、テスラがもたらしたギガキャストです。ギガキャストとは、車体を超大型鋳造機でひとかたまりの部品として生産する方式です。今まで常識だった溶接・ボルト留めが不要となり、ボディ剛性や生産効率が向上するメリットがあるため、世界中の自動車メーカーが注目しています。

その一方でデメリットもあります。アルミ材を使用していますが、巨大で複雑な鋳物であるため、パーツごとに加工して組み立てる従来のオールアルミボディ車と違って、加工硬化による剛性(金属加工で力を加えると素材の強度が上昇します)が得られず、薄く作りにくいそうです。そのため、軽量化を期待してアルミニウムを使っても、思うほど効果が得られていないようです。

また、その一体不可分で厚みのあるボディ構造が鈑金修理を困難にしています。加えて、アルミ材は熱影響に敏感であるため、修理には専用工場や高度な技術が必要です。この結果、修理が不可能、あるいは非常に高額となり、僅かなダメージでも全損扱いにされるケースが報告されています。この影響でテスラ車との契約を拒否する保険会社すら出現しています。

もちろん、自動車業界はこのような課題をただ傍観しているわけではなく、リペアビリティ(修理可能性)の解決に向けて取り組みを進めています。矢面に立つテスラはボディ修理の研究開発投資を続けており、最近では修理の選択肢が出てきたとのことです。例えば、亀裂が50mm以下なら溶接補修が可能な場合があるようです。一方で、完全一体成型ではなく複数に分けて生産する「いいとこどり」のアプローチを採用する企業も出てきており、修理問題は改善の兆しが見られます。

リペアビリティで進展がある一方で、肝心の修理人材の不足は依然として深刻な状況です。

従来型の車でも、ドアなどの脱着可能なパーツの修理はすでにAssy交換(まるごと交換)が主流になっており、鈑金・塗装技術の習熟に長い年月がかかるにもかかわらず、若い世代の技術研鑽の機会が減少しているようです。また、職人の高齢化が進行しており(*1 )、若い世代の流入が少ないことも問題です。さらには、現行車種で主流のハイテン鋼(通常の鋼より高強度で、薄くて軽い)の修理さえ難しいとされているところに、同様に高度な技術を要するアルミなどの素材が増えていく可能性があります。「車を直そう!その1」(*2)で述べたように、高度な安全装置の普及により、修理を手掛けにくい車が増加していくことも留意しておきたいポイントです。

これらの影響により、ボディ修理はやはり困難なままとなり、実質的に買い替えが唯一の選択肢になる恐れがあります。そのため、鈑金・塗装工場の再編や、職人技を再現できるファイバーレーザー溶接機(初心者でも扱いやすく、細いレーザーによる精緻な仕上がりや熱影響の少なさ、高速自動溶接が特徴)のような高額な機械の導入が求められる局面が増えると考えられます。

ここまでアルミを前提にお話を進めてきましたが、某アルミ関連企業の元研究者から、「日本の製鉄会社のハイテン鋼の技術が極めて高い水準にあり、自動車ボディのアルミ化は現実問題として難しいだろう」との見解を伺いました。製鉄技術のさらなる進化によって、アルミボディ、ひいてはギガキャストの普及が限定的になるシナリオには注意を払う必要があります。

以上のように、自動車業界の技術革新が進む一方で、修理の課題は今なお大きなテーマです。これからは、ボディの進化とアフターサービスの両輪でサステナビリティの実現が求められています。

 

【注釈】
*1 厚生労働省 職業情報提供サイトjobtag 「自動車板金塗装」 労働条件の特徴
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/558
*2 コモンズ投信 ザ・2020ビジョン 2023年12月月次レポート p6「車を直そう!その1 『修理する権利に要注意!』」
https://www.commons30.jp/pdf/fund2020/2020pdf_2023_12.pdf

 

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1
前の記事
【プロが解説】起業家の熱意×投資家の共感という好循環に期待
2024.12.02
次の記事
【プロが解説】アカデミー賞、エミー賞受賞、キャラクタービジネスでも世界を圧倒! 日本のコンテンツが生成AIと共に夢あるエンターテインメント発展することを期待
2025.02.03

この連載の記事一覧

未来予想図

【プロが解説】注目を集める日本の造船業、職人技術が脚光を浴びる存在に!

2025.06.02

【プロが解説】ウクライナの復興需要における、日本企業のニーズとチャンスを探る~1日も早い紛争終結を願って

2025.05.01

【プロが解説】社会課題を解決する企業を応援する「インパクトファンド」は、「今日よりもよい明日」の実現につながる

2025.04.01

【プロが解説】少子高齢化、労働力不足…社会課題の救世主となるのか? ヒューマノイドロボット〈ヒト型ロボット〉の今後はいかに

2025.03.03

【プロが解説】アカデミー賞、エミー賞受賞、キャラクタービジネスでも世界を圧倒! 日本のコンテンツが生成AIと共に夢あるエンターテインメント発展することを期待

2025.02.03

【プロが解説】自動車業界で大変革進行中! EV、テスラ登場の裏で、修理人材不足が課題に

2025.01.07

【プロが解説】起業家の熱意×投資家の共感という好循環に期待

2024.12.02

【プロが解説】28品目のごみ分別! 鹿児島県大崎町でリサイクルを考える

2024.11.01

【プロが解説】EV(電気自動車)シフト、遅延の背景を探る

2024.10.01

おすすめの記事

トランプの米国に疲れた皆さん、欧州はいかが?日本で唯一の「英国株インデックスETF」が上場!

finasee Pro 編集部

【連載】藤原延介のアセマネインサイト⑳
~米国投資信託最新事情
2025年1〜3月の米投信動向と米投信業界のさらなる進化

藤原 延介

【プロが解説】注目を集める日本の造船業、職人技術が脚光を浴びる存在に!

奥 翔子

トランプ関税の混乱を横目に「戦略的自律」をめざす欧州企業に可能性、「テンバガー・ハンター・ヨーロッパ」の視点とは?

finasee Pro 編集部

第10回 投資信託選びの常識を疑え!(その2)

篠原 滋

著者情報

奥 翔子
おく しょうこ
コモンズ投信 ジュニアアナリスト
1997年兵庫県芦屋市生まれ。趣味はモータースポーツ。京都大学卒業後、2021年12月にコモンズ投信に新卒で入社。不動産セクターを主に担当。
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【連載】藤原延介のアセマネインサイト⑳
~米国投資信託最新事情
2025年1〜3月の米投信動向と米投信業界のさらなる進化
トランプ関税の混乱を横目に「戦略的自律」をめざす欧州企業に可能性、「テンバガー・ハンター・ヨーロッパ」の視点とは?
今月スタートした「投資運用関係業務受託業」を金融庁が激推し!金融機関に勤める中堅・若手の有望な移籍先に?
「支店長! ゴールベースアプローチをすれば、お客さま本位の提案になるということでよいですか?」
【プロが解説】注目を集める日本の造船業、職人技術が脚光を浴びる存在に!
広島銀行の売れ筋に株価乱高下の影響、ランキングを上昇したファンドの特徴とは?
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第14回 異動退職者の増加はどのセクターにどんな効果を与えるか
福岡銀行の売れ筋上位に表れた分散投資の差、株式とは一線を画した「純金」のパフォーマンスとは?
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
トランプ関税の混乱を横目に「戦略的自律」をめざす欧州企業に可能性、「テンバガー・ハンター・ヨーロッパ」の視点とは?
今月スタートした「投資運用関係業務受託業」を金融庁が激推し!金融機関に勤める中堅・若手の有望な移籍先に?
自民党が迫る「金融機関のデータ連携強化」でビジネス環境はどう変わる?【オフ座談会vol.5:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
福岡銀行の売れ筋上位に表れた分散投資の差、株式とは一線を画した「純金」のパフォーマンスとは?
【連載】藤原延介のアセマネインサイト⑳
~米国投資信託最新事情
2025年1〜3月の米投信動向と米投信業界のさらなる進化
⑤経営承継の課題と退職時期の決定問題【動画つき】
「支店長! ゴールベースアプローチをすれば、お客さま本位の提案になるということでよいですか?」
中国銀行で評価が高まった国内株ファンドに2つの流れ、さらに長期で「S&P500」を抜き去ったファンドとは?
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第14回 異動退職者の増加はどのセクターにどんな効果を与えるか
広島銀行の売れ筋に株価乱高下の影響、ランキングを上昇したファンドの特徴とは?
今月スタートした「投資運用関係業務受託業」を金融庁が激推し!金融機関に勤める中堅・若手の有望な移籍先に?
「支店長! ゴールベースアプローチをすれば、お客さま本位の提案になるということでよいですか?」
プラチナNISAだけじゃない!「立国議連」提言書で見逃せない注目ポイント3選
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
【文月つむぎ】毎月分配型のアウト/セーフは?当局に問われる「線引き力」
楽天証券の売れ筋がほとんど動かなかったのは大きな変化の前兆か? 意外にもろかった「SCHD」
トランプ関税の混乱を横目に「戦略的自律」をめざす欧州企業に可能性、「テンバガー・ハンター・ヨーロッパ」の視点とは?
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」を再評価、「S&P500」をパフォーマンスで圧倒した人気ファンドとは?
SBI証券で「オルカン」「S&P500」の人気は継続するもののパフォーマンスは悪化、着実にランクアップするファンドとは?
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら