「想定属性」情報のやりとりを求める
昨年末に政府が策定した「資産運用立国実現プラン」では、「成長と分配の好循環」を実現する投資環境整備の一環として、金融商品の組成会社を対象とした行動規範(プリンシプル)を策定する方向性が明記されました。当初、新たなプリンシプルは主に投資信託の運用会社を想定しているものとみられていましたが、WGでのこれまでの議論の中で、商品管理の責任を幅広い商品の製販全体として全うすべきであるとの論調が強まった経緯があります。
報告書案では、組成会社向けに新設する補充原則案(記事末尾に詳細)と別に、既存の原則の6番目の項目の注釈という位置づけで、販売会社に求められる対応を以下のように規定します。
原則6
(注3)商品の販売に携わる金融事業者においては、(組成会社が想定する顧客属性について)十分に理解した上で、自らの責任の下、顧客の適合性を判断し、金融商品の販売を行うべきである。
(注6)金融商品の販売に携わる金融事業者は、商品の複雑さやリスク等の金融商品の特性等に応じて、製販全体として顧客の最善の利益を実現するため、金融商品の組成に携わる金融事業者に対し、金融商品を実際に購入した顧客属性に関する情報や、金融商品に係る顧客の反応や販売状況に関する情報を提供するなど、金融商品の組成に携わる金融事業者との連携を図るべきである。
(注7)金融商品の販売に携わる金融事業者は、商品の複雑さやリスク等の金融商品の特性等に応じて、プロダクトガバナンスの実効性を確保するために金融商品の組成に携わる金融事業者においてどのような取組みが行われているかの把握に努め、必要に応じて、金融商品の組成に携わる金融事業者や商品の選定等に活用すべきである。
(太字は川辺)
このように、組成会社側が特定した想定顧客属性の情報を販売会社が把握したうえで、実際に想定通りの顧客層に販売しているか、情報をフィードバックするよう促しています。
WG会合に出席した委員からは、事務局提示の案におおむね賛同する意見が相次ぎました。ある委員は補充原則案について「必ずしも業界が萎縮することなく、顧客のポートフォリオの多様化に資するような商品提供や開発が促される前向きなものとして捉えられるように期待している」と述べました。
「最善利益」「ライフサイクル」に言及
一方、報告書案で目立つのが、「最善の利益」という表現の多用ぶりです。3月に施行された改正金融サービス提供法では、幅広い金融商品の組成や販売に携わる事業者を対象とした「最善利益義務」が新設されました。報告書案に含まれるプリンシプルは法的な拘束力をもたないという建て前ですが、プリンシプルの強化に向けた報告書案で「最善の利益」という言い回しを10回以上にわたって持ち出していること自体が、ルールとプリンシプルの接近を印象づけているといえます。
さらに、報告書案の別の箇所では「プロダクトガバナンスは、各段階の品質管理だけでなく、組成から償還に至る金融商品のライフサイクル全体の中で実効的に機能していくことが重要」と指摘しています。
「金融商品のライフサイクル」という考え方については、6月19日に監督局が取りまとめたディスカッションペーパーの最終版(「「商品・サービス及び業務のライフサイクル管理に関する基本的な考え方」)でも取り上げられています。同時に公表したパブコメへの回答では、プロダクトガバナンスとライフサイクル管理が「重なり合う」ものという規制当局としての認識を明記。ルールベース行政を司る監督局側と、プリンシプル行政の色合いが強い総合政策局との役割分担が曖昧化しているようにも読めます。
ファイアウォール議論は「見合わせ」示唆
また、今回の報告書案では、同一グループ内の銀行と証券会社の間で顧客情報の授受に制限をかける銀証ファイアーウォール規制の見直しについても、独立した章立てを設けています。現在、顧客情報管理態勢の整備状況などに関するモニタリングを実施しているとしたうえで、「議論を行う際には、当該モニタリングの結果を踏まえる必要があると考えられる」と記載しています。
報告書案の公表に前後して今月、三菱UFJフィナンシャルグループ傘下の銀行、証券会社に対する証券取引等監視委員会の処分勧告と金融庁の処分がありました。報告書案の書きぶりはこうした情勢を踏まえ、情報連携範囲の拡大に向けた前向きな議論を、当面見合わせる考えをにじませた格好です。この日の会合でもある委員から「事業会社が銀行に対して情報提供の禁止について再三伝えたにも関わらず、銀行が証券会社に非公開情報を提供してしまう事案が発生したことについては、大変残念かつ遺憾に思う。このような状況が改善され、リスクが払拭されない限りは、規制の見直しを議論するのは難しいと考える」との声が上がりました。