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『捨てられる銀行』シリーズの著者・橋本卓典氏が窓販25年の歴史を斬る

新NISAで転換期迎える日本
「資産運用の民主化」時代に 窓販はどう生きるか
第3回【後編】

橋本 卓典
橋本 卓典
共同通信編集委員
2024.06.18
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新NISAで転換期迎える日本 <br />「資産運用の民主化」時代に 窓販はどう生きるか<br />第3回【後編】

1998年12月に投資信託の銀行窓販が解禁されて25年。今年からはいよいよ新NISAがスタートを切り、まさに「貯蓄から投資へ」の時代に本格突入しようとしている。新時代を迎える今、窓販はどう生きるべきか。共同通信編集委員で『捨てられる銀行』シリーズの著者でも知られる橋本卓典氏に、窓販改革の歴史を振り返る内容を寄稿いただいた3回シリーズの最終回「後編」。

金融機関はどう生きるか

現在の極端な低コスト志向は、インターネット革命、スマホの台頭などの要因を差し引いたとしても、総括すれば米英に資産運用・資産形成で家計金融資産に圧倒的な差をつけられたという点において、1998年に解禁された窓販が失敗だったことを示唆している。

新NISAが日本の資産運用にもたらす真の意味は、国が恒久非課税という強力な制度で投資家を誘導し、投資家が主体となって資産形成に資する販路、商品だけに絞り込んでいく、ということだ。

銀行、信金信組など金融機関の窓販は、このままでは生き残れない。そもそもシステムコストで投信販売は原価割れしていたではないか。

ただ、悲嘆に暮れる必要はない。 
誤解してほしくないのは、筆者が、銀行、信金信組など金融機関の存在意義を否定しているのではないということだ。むしろ人口減少が深刻化していく地域において、「本当に求められている付加価値」をもたらす地域金融機関がますます必要となってくるという確信を強めている。

求められている付加価値に「対面」は十分あるとしても、それは「窓口での販売」ではない。迫られているのは「生き方」を変えるということだ。以下に、地域金融機関が模索しながら進みつつある「いくつかの道」を示しておく。

投信窓販から撤退する地銀も

島根県浜田市の日本海信用金庫は、2020年10月から窓販業務を縮小、22年9月末で販売を終了した。「地域の人口減少、少子高齢化、金庫職員数の減少を背景に、法人取引業務に経営資源を集中すべきと判断した」(徳富悠司理事長)ためだ。

経営企画部の田中剛副部長は次のように語る。
「費用対効果で試算したところ、今の10倍の商品を販売しなければならないことが分かりました。お客さまにとって資産運用は必要ですが、ネット証券もあることですし、もはやわれわれがサービスを提供しなければならない理由はありません」

日本海信金では投信窓販で年間300万~ 400万円のランニングコストを支払っていた。新NISAではシステムコストが600万~ 700万円にはね上がる見込みであった。顧客に業務終了を説明し、地元に拠点を持つ証券会社に顧客資産の移管を進めた。大部分の顧客は理解を示したが、一部には「アクセスしやすい信金の方が良かった。手数料を取っているのだからフォローすべきだ」という厳しい声もあったという。

山陰合同銀行は20年9月から野村證券の専用口座に顧客口座を移管し、金融商品仲介業に転換した。システム費用は野村證券に負担してもらう代わりに仲介販売収益の一部を受け取るスキームだ。これにより投信販売による赤字体質から脱却した。それだけではない。野村證券からの出向に伴い、浮いた人員を法人取引に回し、戦略的な配置転換を行っている。

地域金融機関は日銀が利上げに踏み切ったことで到来した「金利ある世界」に備えなければならない。大規模金融緩和政策の影響で、貸出金利を引き上げる融資交渉をしたことがない職員が多いからだ。これでは「金利ある世界」で、本来業務であるストックビジネスの強みを発揮できない。新NISAに加えて、金融政策の変更は、金融機関が業務内容、経営資源を見直す絶好のタイミングなのだ。

北國フィナンシャルホールディングス(北國FHD)は、22年11月から販売手数料を全廃した。その1年前の21年10月から傘下のFDAlco(FDアルコ)を通じて、投資助言業務を展開し、コンサルティングフィーによる収益モデルの構築を目指している。

この「助言」は、地域金融機関の一つの生き方となる。
日本版IFAも登場したが、一部を除けば、債券にもかかわらず高リスクの「仕組み債」の購入を顧客に推奨していたりと、品質に疑問のある業者も目立つ。また、証券会社からフィーをもらっている時点で、そもそも「I」(独立)ではない。利益相反はゼロではない。

投資助言の問題は簡単な話ではない。米英でも悩ましい課題だ。
顧客からの助言手数料だけで収益を確保しなければならないとなると、どうしてもより多くの預り資産があり、高い手数料を支払える富裕層がメインターゲットとなってしまう。一般的な投資家は、十分なアドバイスを受けられないという「アドバイスギャップ」が生じてしまうのだ。

認定アドバイザー制度始まる

国は、このアドバイスギャップ解消のため、独立系FP(ファイナンシャルプランナー)を主な対象として、認定アドバイザー制度を導入した。4月に政府、日銀、金融業界が出資して設立した金融経済教育推進機構(J-FLEC)が認定する認定アドバイザーの派遣、個別相談、セミナーを8月以降、順次進める。

意欲的なKPI(重要業績評価指標)も設定した。機構によれば、年間1万回の講師派遣回数と同75万人の参加人数、金融知識・判断力を問う設問の正答率を欧米並みの70%(現状40 ~ 50%)に引き上げ、講義受講後に生活設計などへの意識を持つ割合・取組率、さらには外部の知見の活用率を受講前比10%向上させるという。

特筆すべき点としては、金融商品の組成・販売を行う金融機関は認定アドバイザーの対象から外されたことだ。

地方の生活者まで確実にリーチするためには、地域金融機関の存在は不可欠である。しかし、国は利益相反を防ぐという一線を譲らなかった。「認定アドバイザーの信頼性が揺らぐことは許されない」という強い意思の表れとみるべきだろう。認定アドバイザーが中立的に助言し、そうした助言に沿う商品を取り扱う金融機関の窓販が選ばれていくメカニズムを想定しているのだ。

仮に認定アドバイザーの助言を覆して、金融機関が別の商品に誘導することがあれば、金融庁のモニタリングの対象にもなりうる。金融機関にとって都合の良い、「手数料の高いオススメ商品」の販売は、少なくとも認定アドバイザー制度においては難しくなる。

もちろん、認定アドバイザー制度が有効に機能するのかどうかは未知数だ。その真価は8月以降に問われる。

分かりにくい日本の「アドバイザー」

そもそも日本では、この「アドバイザー」の概念が分かりにくいという問題がある。窓販業務を展開する金融機関に所属するFPは、自社で取り扱う商品を顧客に勧めるため、そもそも中立的な立場ではない。

IFAは、一部を除き証券会社から手数料を受け取っているため、「アドバイザー」というよりも「ブローカー」という表現の方が的確だ。顧客本位にサービス提供しているところもあるが少数派である。

現状、アドバイザーと呼べるのは、顧客から投資顧問料を受けとる登録投資助言(Registered Investment Advisor=RIA)、そして金融機関に所属していない独立系FPだろう。

RIAは、個別商品まで助言できるが、事業収益を確保するには、前述の通り、どうしても顧客が富裕層に偏りがちだ。一方、独立系FPは個別商品まで踏み込んで助言できない。資産ポートフォリオに関するアドバイスが中心となる。顧客自身が商品を調べて、選ばなければならない。

ただ、ここにも悩ましい問題がある。資産運用と残高管理をするためのシステムプラットフォームが存在しないことだ。プラットフォームがなければ、残高に応じた手数料支払いの仕組みを構築することも難しくなる。顧客の運用資産が順調に増えたのかどうかをアドバイザーは確認しなければならない。一方、顧客は自らの証券口座のID、パスワードをアドバイザーに教えることには、相当の抵抗感が予想されるからだ。

近年、考えるべき問題は独立系FPで投資助言業登録をした上で、仲介業も兼務している点だ。「商品選定まで望む顧客ニーズに対応するため」という名目らしいが、仲介がある限り、常に顧客利益を最優先するかどうかの怪しさもつきまとう。

問われるのは、富裕層に偏らず、一般生活者へのアドバイザーを誰が担うのか、だ。ここに地域金融機関の可能性も残されている。前述の通り、窓販がある限り、金融機関が認定アドバイザーになることはない。だが、窓販から自主的に撤退し、助言に特化することは金融機関にもできる。

前述したFDアルコも簡単に収益モデルを構築できているわけではない。アドバイスギャップが生じないようにしながら、収益確保のため、法人向け、他の金融機関向けにもサービスを展開している。これが地域金融の生き残る挑戦の一つであることは間違いない。

「資産運用の民主化」時代はグレートリセットのチャンス

そもそも生活者にとっては投信や上場株式投資がすべてではない。

年齢や家族の状況に応じ、過剰に加入している保険を見直す必要もある。家を購入すべきか否か、住宅ローンの返済計画、子供の学費、遺産相続は、すべて頭の痛い問題だ。

企業経営者にとっても会社の資金運用、株主構成、創業家の資産運用、事業承継と相続、職員の資産形成は重大な問題だ。

こうした細かいニーズに入り込み、付加価値を提供できるのは、本来、地域密着で投融資の機能も持ち合わせる地域金融機関のはずだ。

窓販業務に思い入れのある担当者ほど、「窓販は終わる」という言葉は腹立たしく、耳をふさぎたくなるかもしれない。しかし、金融機関が扱う「売りたい商品」を地域の顧客に売っているだけでは、肝心の付加価値を顧客に提供できなくなるのは明らかだ。頭に思い浮かぶ顧客にとっての「最善の利益」を考えてほしい。顧客利益を共に追求することこそ、生き残る地域金融の道ではないのか。

資産運用の民主化を到来させる新NISAのスタート、そして「金利ある世界」への復帰は、実はピンチではない。今後は通用しない「過去の成功」をグレートリセットするチャンスなのだ。いつの時代もピンチはチャンスである。チャンスに転換することこそ、「これまでの強者」が生き残るとは限らない環境変化への適応なのだ。

前編の記事はこちらから

金融機関はどう生きるか

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著者情報

橋本 卓典
はしもと たくのり
共同通信編集委員
1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。09年から2年間、広島支局に勤務。金融を軸足に幅広い経済ニュースを追う。15年から2度目の金融庁担当。16年から資産運用業界も担当し、金融を中心に取材。
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