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『捨てられる銀行』シリーズの著者・橋本卓典氏が窓販25年の歴史を斬る

新NISAで転換期迎える日本
「資産運用の民主化」時代に 窓販はどう生きるか
第3回【前編】

橋本 卓典
橋本 卓典
共同通信編集委員
2024.06.17
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新NISAで転換期迎える日本 <br />「資産運用の民主化」時代に 窓販はどう生きるか<br />第3回【前編】

1998年12月に投資信託の銀行窓販が解禁されて25年。今年からはいよいよ新NISAがスタートを切り、まさに「貯蓄から投資へ」の時代に本格突入しようとしている。新時代を迎える今、窓販はどう生きるべきか。共同通信編集委員で『捨てられる銀行』シリーズの著者でも知られる橋本卓典氏に、窓販改革の歴史を振り返る内容を寄稿いただいた3回シリーズの最終回「前編」。

第1回・第2回で述べた通り、これまでのような「銀行、証券会社が売りたい商品を資産運用会社につくらせて、窓口で顧客に売る」という「販売会社主導」の時代は新NISAによって終焉を迎える。大多数の一般的な個人投資家は、非課税となる生涯投資枠1800万円という新NISAの対象商品だけで投資を行うからだ。

結果、投資家にとっての最適な資産形成に資する金融商品を提供できる資産運用会社が利用者によって選ばれていく。資産運用会社はそうした理念を共有する販社を選び、商品を卸していくことになる。投資家が起点となる。すなわち民主化だ。

資産運用の民主化では、顧客本位を顧みない金融商品や販売チャネルは生き残れなくなる。金融庁の森信親長官がフィデューシャリー・デューティー(顧客利益を専らに考え行動する価値観)を掲げて始まった資産運用改革は、新NISAで結実する。

新NISAでは、投資枠の拡大にもかかわらず、「1人1口座」が維持された。投資家は否が応でもNISA口座をつくる金融機関を1つに絞らなければならない。金融機関は、情け容赦のない適者生存を突きつけられる。

金融機関の窓販が厳しい戦いを迫られる理由がいくつかある。まず取扱商品の限界である。ノーロード(販売手数料無料)で、信託報酬も極端に安いインデックス投信を含む幅広い金融商品を取り扱うことができなければ、NISA口座としてそもそも選ばれにくくなる。

後述するが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下で、三菱UFJアセットマネジメントが主力商品とする「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー=オルカン)」「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」などのeMAXIS Slimシリーズ、もしくは手数料が同等水準の商品を取り扱えなければ、資産形成を志向する投資家から選択肢とみなされない。

新NISAの説明では生涯投資枠1800万円ばかりが取り上げられるが、正確ではない。

本質は、「1800万円の投資枠のうち、少なくとも600万円は『つみたて投資枠』が対象とするインデックス投信などの極めて手数料の低い投信を買わなくてはならない」ということだ。つみたて投資枠が対象とする低コスト投信で1800万円を使い切ることはできるが、成長投資枠の対象商品で投資できるのは1200万円までなのだ。

新NISA で窓販が選ばれない理由

その成長投資枠でも窓販の厳しい戦いは目に見えている。言うまでもなく銀行、信金信組の窓販では個別株を扱えないからだ。

配当目当ての高齢層にとっても、成長投資枠で高配当株式投資をできないことは「痛手」と考えるのではないか。複利による資産形成効果の議論はあるにしても、最近は手数料が0.1%を下回る高配当型投信さえ登場している。こうした商品も取り扱えなければ窓販は、手元キャッシュフローに関心の高い高齢層からも遠からず見放されるとになる。

それでも一定の高齢層は、これまでの金融機関で取引を続けるだろう。が、それも老い先を考えれば、10年もないはずだ。高齢者のデジタル化も目覚ましい。スマホでLINEを使いこなす高齢者も珍しくない。

商品だけではない。SBI証券、楽天証券はクレジットカードによる積立投資で還元されるポイントによる「経済圏」の囲い込みを進めている。ポイント還元の経済圏に取り込まれた投資家がネット証券から戻ってくることは考えにくい。インターネット証券でNISA口座の開設が急伸したことが、多くの投資家の考えを物語っている。

このことは、今後、預り資産ビジネスを志すベンチャーの芽も摘むことを意味する。新規参入組が新NISAの口座をネット証券から奪い取ることはほとんど不可能だからだ。新NISAがもたらす副作用の一面ではあるが、これが日本の選んだ道であることは現実として受け止めなくてはならない。

eMAXIS Slimがゲームチェンジャー

金融業界を俯瞰すれば、NISA制度と相まって、これまでなかった地殻変動が起きている。

それは、金融商品がすべての販社、販売チャネルを儲からなくさせているという価格破壊の構図だ。

その金融商品こそ、前述したeMAXIS Slimだ。eMAXIS Slimこそ、資産運用・資産形成サービスの「ゲームチェンジャー」となっている。

抜け目ないメガバンクは、新NISAを見据えて既にネット証券との連携戦略を進めてきた。三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)はSBI証券、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)は楽天証券と提携し、がっちりスクラムを組んでいる。「強い販売チャネルをおさえた者が勝利する」という伝統的な販売チャネル戦略である。

一見するとMUFGは、販売チャネル戦略では出遅れているようにも見える。しかし、冷静に資産運用業界を見渡せば、eMAXIS Slimを中心に物事が動いているのが分かる。

NISA口座数を急激に伸ばしたSBI証券、楽天証券でさえ、eMAXIS Slimの「オルカン」「S&P500」に対抗するため、同等水準の超低コスト投信を投入せざるを得ない状況となっている。

セゾン投信の中野晴啓会長(当時)が2023年6月、親会社のクレディセゾン林野宏会長から事実上、解任されたのも遠因は同じ構造問題である。すなわちeMAXIS Slimがネット証券で爆発的に売れ、預り資産残高を急激に伸ばしたことによる、林野氏の「焦り」が解任劇を引き起こしたとも言える。

SBI証券や楽天証券がeMAXIS Slimに対抗する超低コスト投信を投入する狙いは、資産運用会社への信託報酬の流出を少しでも減らすことにある。

ただ、これは外部流出による赤字の垂れ流しを手当てしたに過ぎない。自前の超低コスト投信を購入する顧客にポイント還元を手厚く行っていることからしても、超低コスト投信の販売では、儲かっていない。新NISA口座を獲得することで、超低コスト投信以外のFX取引などから幅広く稼ぐ戦略だ。

影響が及んでいるのは全世界株やS&P500に連動した投信だけではない。他の投信手数料も総じて低下傾向にある。販売(購入)手数料がゼロであるのはもはや当たり前で、アクティブ投信であろうと、信託報酬に厳しい目が向けられるようになっている。

もちろん、これは行き過ぎの感もある。米国でも相応のコストを支払うファンドは珍しくない。本来問われているのはリターンだ。リターンに見合う手数料は認められて然るべきだ。

日本で過剰なまでに超低コスト志向の嵐が吹き荒れているのは、これまでリターンを伴わない資産運用を繰り返してきた金融業界に対する投資家の不信感の裏返しとも言える。

超低コスト競争を呪う前に、顧客利益・顧客資産を最優先に行動しなかった因果応報を顧みるべきだ。顧客本位、顧客利益とは偽善でも、絵空事でもない。情報の非対称性が薄まったネット社会における厳しいビジネス競争を勝ち抜くための必然的な価値観だ。

後編は6月18日(火)公開

第1回・第2回で述べた通り、これまでのような「銀行、証券会社が売りたい商品を資産運用会社につくらせて、窓口で顧客に売る」という「販売会社主導」の時代は新NISAによって終焉を迎える。大多数の一般的な個人投資家は、非課税となる生涯投資枠1800万円という新NISAの対象商品だけで投資を行うからだ。

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橋本 卓典
はしもと たくのり
共同通信編集委員
1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。09年から2年間、広島支局に勤務。金融を軸足に幅広い経済ニュースを追う。15年から2度目の金融庁担当。16年から資産運用業界も担当し、金融を中心に取材。
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