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年金運用から学ぶプライベートアセット投資の手引き

第5回:資産クラス編④ プライベートエクイティ【後編】

小倉 邦彦
小倉 邦彦
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
2024.05.09
無料
第5回:資産クラス編④ プライベートエクイティ【後編】

プライベートアセットに投資する際の留意点や心構えを中心に解説する本コーナー。前編と同様、立場の異なる3人の運用執行理事による会話形式で、プライベートエクイティについて深掘りしていきます(架空の人物です)。

3人のプロフィール

A氏:最近企業年金基金に常務理事兼運用執行理事として着任、本体では経理・財務関係の仕事に長年従事してきた。

B氏:常務理事兼運用執行理事として8年の経験があるベテラン。プライベートアセット投資には積極的。

 C氏:B氏同様運用経験の長いベテラン常務理事兼運用執行理事。最近プライベートアセット投資にはやや慎重姿勢。

 

PE投資における留意点:流動性とJカーブ

A氏:PE投資における一般的な留意点はどういう点になりますか?

C氏:大宗を占めるクローズドエンド型ファンドでは、10年を超えるファンドの運用期間中は解約ができないので、投資家は長期に使用可能な資金で投資をする必要があります。どうしても解約したい場合はセカンダリー市場での売却も可能ですが、通常は大幅なディスカウントになることを覚悟する必要があります。キャッシュフローでみてもコミットしてから4年くらいはキャピタルコール(拠出額)が分配金を大きく上回り、毎年資金の持ち出しになりますが、5年目くらいからは分配金がキャピタルコールを上回り、年度のキャッシュフローはポジティブに転換してきます。累積ネットキャッシュフローがポジティブになるのはコミットしてから7~8年目くらいではないでしょうか。

B氏:まさにキャッシュフローのJカーブですね。先にも話題になりましたが、収益面でもコミットメントフィーの負担が重く、当初の数年間はIRRがマイナスになってしまいます。投資の初期段階でリターンがマイナスになる、いわゆるJカーブ効果が発生するのは、PEに限らずインフラや不動産などバリューアップ系のクローズドエンド型ファンドでも同じです。

C氏:Jカーブを浅くするためにFOFsではプライマリー、セカンダリー、共同投資の中でも比較的早くリターンが出るセカンダリーの比率を多めに設定するようなファンドもありますね。

PE投資でも分散投資が肝要

A氏:PEではビンテージ分散やマネジャー分散がポイントとよく聞きますが、この点はいかがでしょう?

C氏:PE投資は基本的に流動性がなく個別性が非常に強い投資なので、投資実行後のリスク管理は難しいと思います。これは他のPA投資にも共通するポイントですが、投資実行後はたとえ市場が大きく動揺したとしても、伝統4資産のように持ち分の売却やショートポジション等によるリスクコントロールは不可能です。従って、投資実行時に「分散」によってリスクを管理することが重要になってきます。VCやグロース、バイアウトといった投資戦略における分散、北米、欧州、アジアといった地域分散、ビンテージ(ファンド組成年)の分散といったところでしょうか。

A氏:戦略や地域の分散はわかりますがビンテージ分散はなぜ必要なのでしょう?

B氏:PEファンドのパフォーマンスは、投資を行う時期の市場環境に大きく影響されるからです。例えばリーマンショックの数年前に組成されたファンドは、リーマンショックの直撃を受けてパフォーマンスが平均以下になっているのに対し、リーマンショック直後に組成されたファンドは割安で投資できた上に、その後の景気回復の恩恵を受けて高いパフォーマンスを示しています。一方で、市場環境の予想は難しいので、定期的に同程度の金額の投資を行うことでビンテージを分散し、平均的なリターンを狙っていくのがよいということです。

C氏:最近でも新型コロナショックの際は市場の混乱でセカンダリーのディスカウントも大きくなっており、エントリーポイントとしては悪くなかったと思いますが、だからといってそこにベットするという話ではなく、毎年あるいは定期的に一定額の新規コミットを継続するのが長期投資のPEとしては肝要ということですね。

A氏:マネジャーの分散も必要でしょうか? 良いマネジャーであれば高いリターンが期待できるので投資資金を集中させてもよいのではないでしょうか?

B氏:PE投資はファンドの運用者(GP)によってパフォーマンスに大きな格差が出ると言われています。パフォーマンスの格差は市場の変動というよりも、投資先企業の目利きによるところが大きいので、優れたGPのパフォーマンスの再現性は比較的高いと言われています。なので、まずは優秀なGPを見極め、そうでないGPをふるいにかけるのが一番でしょう。

C氏:Bさんのご指摘もごもっともですが、優秀なGPも時として過去の成功体験や固定観念にとらわれて失敗することもありますので、マネジャーリスクを避けるためにある程度の分散は必要でしょうね。

FTX事件にみるVC投資先の破綻リスク

A氏:2022年に破綻した仮想通貨交換所のFTXには、米国でも最有力のVCであるセコイアやタイガーグローバルなどが出資していて損失を被ったという記事が出ていました。セコイアは2億ドル近い投資額の評価をゼロにしたようです。他にバイアウトファンドも出資していたようですが、PEファンドはかなり厳密なデューデリジェンスを行うと聞いていたのでちょっとびっくりしました。

C氏:そうですね。PEファンドではかなり精緻にデューデリジェンスしますが、VCでは将来の成長性ばかりに目が行って、ガバナンスの欠如は見抜けなかったのでしょうね。FTXは例外的なケースだとは思いますが、PEは非上場企業への投資なので、想定した成長軌道をたどれなかったり、予期せぬ経営上の問題が発生したりして、ファンドからの投資が棄損することはまれにあると思います。やはりVC投資は玉石混交だと思っていたほうがよいでしょう。

B氏:その意味でも先ほどの繰り返しになりますが分散投資が肝要ということです。VCやグロースではリスク分散の観点から1ファンドの投資先を30~50社程度にしているようですが、バイアウトでは一般的に20社未満とも言われています。いずれにしても投資先の分散という観点からはFOFsへの投資は効果的だと思います。

オープンエンド型ファンドの注意点は?

A氏:A氏:逆にオープンエンド型の短所はどういう点でしょう?

B氏:投資家に一定の流動性を供与するために、アセットには一部流動性のあるものを入れています。例えばキャッシュ10%に加えてインカム収入が取れるプライベートデットを15%などですね。そのため、クローズドエンド型ファンドの目標リターンがネットIRR15%+αとすると、オープンエンド型ではネットIRRが10%+αという感じになるようです。リターンはPE本来のものよりも多少下がってもよいので少額でPE投資をしたい、今すぐPEのポートフォリオを構築したいという方には向いていると思います。

C氏:月次または四半期で解約できるといってもゲート条項は付いており、一般的には四半期ごとの解約金額の上限は直前のNAVの5%程度になっています。流動性はあるけれど投資家が殺到すればゲートはすぐに閉まってしまうということでしょう。これはマーケットの急変で売却を急ぐ場合だけでなく、ファンドの成績は好調でもデノミネーター効果により相対的に資産割合が増加したPAのリバランスを強いられたときにも起こる問題で、今はオープンエンド型の米国私募REITで同様の問題が発生しています。

A氏:初めてPE投資をする立場からするとオープンエンド型はなんとなく安心感もありますが、日本の年金でのニーズは高そうですか?

B氏:オープンエンド型ファンドは一本採用すればそれで分散も図られるので、ポートフォリオ構築に時間をかけたくない基金や、ビンテージ分散のための継続投資が難しい小規模基金には向いていると思います。信託商品では最低投資金額が200万ドルのファンドもあるので、運用資産が小規模でも無理なくPE投資ができます。制限はあるものの月次や四半期で解約できるというのも、制度変更等の可能性を背景に流動性を気にされる日本のDBには魅力的なのではないでしょうか。

C氏:PE投資の最低投資金額は1000万ドルとよく言われていましたが、最近ではクローズドエンド型でも最低投資金額が200万ドル程度のFOFsがありますから、中小規模のDBでもPE投資に取り組みやすくなってきています。

A氏:ところでPEのNAVは四半期ごとに大体3カ月くらい遅れて報告されると聞いていますが、月次でNAVの算出などはできるのでしょうか?

C氏:良いところに気づかれましたね。直接投資(共同投資)は月次でもEBITDAマルチプルで数字が拾えると思いますが、オープンエンド型ファンドの場合、投資先のPEファンドやプライベートデットファンドは四半期ごとの報告で、しかもPEファンドだと四半期で締めても数字が出てくるのが3カ月後くらいなので、どうするのでしょうかね。解約や新規投資に適用される基準価額は暫定価格で計算して後で確定価格との差を調整という方式もあると思いますが、日本で販売されているオープンエンド型ファンドでは暫定価格方式は採っていないようです。

B氏:投資先ファンドについては手元にある最新のNAVをベースに新規拠出や分配金等を調整して計算しているのではないでしょうか。PAの場合は他の多くのファンドも決算期は会計監査によりしっかりとした公正価値が計算されていると思いますが、それ以外の四半期については、語弊はありますが「ざっとしたもの」ではないでしょうか。期中での新規投資や解約の際、そこは所与のものとして受け入れるということでしょうね。

A氏:オープンエンド型ファンドのメリット・デメリットがよくわかりました。

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著者情報

小倉 邦彦
おぐら くにひこ
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。 2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。 2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。 2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。 2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。 2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。 2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。
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