PE投資のベンチマークはあるのか?
A氏:ところでPEにはベンチマークはあるのでしょうか?
B氏:よく利用されているのはCambridge Associatesが提供する指数ではないでしょうか。米国だけでなく全世界のPEファンドについて、米国のベンチャーキャピタル、米国のプライベートエクイティ、米国を除く先進国のプライベートエクイティとベンチャーキャピタル、新興国のプライベートエクイティとベンチャーキャピタルといったタイプ別に分けて、四半期ごとのトータルリターンを開示しているのでわかりやすいですね。
A氏:ベンチマークから見た最近のパフォーマンスの傾向はどうでしょうか?
C氏:2021年第4四半期まではPE、VCともに好調でしたが、ロシアによるウクライナ侵攻やFRBの利上げが開始され株式市場のボラティリティが高まってきた2022年第1四半期からはPE、VCともにドルベースのリターンはマイナスに転じています。
日本の年金ではPE投資は為替をオープンにしているケースが多いので、急激な円安により信託帳票ベースでは22年初からのパフォーマンスの低下が見えにくくなっていたかもしれませんが、株式市場のボラティリティが高くPEのエグジットにブレーキがかかっている現状では、ある程度の調整はやむを得ないでしょうね。VCを除く米国のPEは2022年のリターンが▲4.34%、米国のVCが▲20.77%と大きく落ち込みました。2023年は第3四半期までの累計ですが、VCを除く米国のPEは+6.21%と持ち直してきましたが、米国のVCは▲3.9%と昨年ほどではないもののいまだ低迷しています。
B氏:インフラやプライベートデットでも説明しましたが、PAは非常に個別性が強いのでベンチマークとはいってもApple to apple(同一条件)で比較できるものではないです。ただ、全体の流れをつかむのには極めて有効な指標かと思います。
A氏:私もPE投資を開始したら時々チェックするようにします。
PE投資のパフォーマンスには、なぜIRRが使われるのか
A氏:ところでPE投資のパフォーマンスの表示にはIRRが使用されていますね。
B氏:PE投資は初期段階では投資資金の拠出が先行しリターンもマイナスですが、時間が経過するにつれて分配金により元本の回収が進み大きなキャピタルゲインを計上するのが一般的です。株式や債券のように一度投資元本を拠出すると毎年リターンがでてくる資産とは異なり、キャッシュフローを得られるまでの期間を評価に織り込む必要があります。
例えばDay1に100投資をして2年後に120を回収(帳票上は20の利益)するとIRRは9.54%ですが、同じDay1に100投資をして4年後に120を回収する場合は、帳票上の利益は先ほどと同じ20であってもIRRは4.66%と大きく下がります。早期に資金を回収できれば再投資によってさらに利益を積み増すことが可能になるので、より効率性の高い投資ということになります。ちなみにDay1で100投資をして5年後に200を回収(帳票上は100の利益)するとIRRは14.87%になります。
A氏:グロスとかネットIRRというのはどういう違いがあるのでしょうか?
C氏:グロスIRRはファンド報酬(成功報酬等含む)控除前の数値であり、それらを控除したネットのキャッシュフローで計算されたものがネットIRRになります。投資家にとってはネットIRRのほうが重要になります。PA投資ではPEに限らずインフラやPDなどでもIRRが使用されますが、企業が事業投資をする際にも収益性の評価でIRRをよく使用しています。
A氏:なるほど。でもPEのようにファンドの期間が有限でキャッシュフローが最後まで計測できるものはよいですが、継続企業への投資の場合はキャッシュフローが長期にわたって継続しますよね。その場合はどうやって計測するのですか?
C氏:よいところに気付きましたね。これはPE投資から話題が少しそれますが、5年や10年などの予測可能な期間で事業計画を策定し、それに沿ったキャッシュフローを計算します。問題はその後ですよね。
事業計画の策定が困難な5年後、10年後以降は一定の成長が続くとの前提でターミナルバリュー(永続価値)を計算し、それを最終年度のキャッシュフローに加えてIRRを計算します。M&Aの事業価値評価ではこのターミナルバリューの占める比率がかなり高くなる案件もあるので、そういう場合はターミナルバリューの前提条件を慎重に吟味してその妥当性を検証する必要があります。
A氏:PE投資の場合、投資家としては上場株とのパフォーマンスを比較したい、上場株に対してどのくらいの超過収益が出ているかというのを知りたいという要望があるかと思いますが、IRRの場合それは可能なのでしょうか?
C氏:確かにそうですね。しかし実際のところTOPIXやMSCIのような上場株のベンチマークとPEファンドのIRRは単純には比較できません。これを解決するためにPME(Public Market Equivalent)という手法が用いられています。PMEはPEファンドのキャッシュフロー(資金拠出や分配金)をベースに、それが発生した時点で上場株式のINDEXを売買したと仮定してIRRを算出するものです。ファンドのIRRが20%でPMEによる上場株式のINDEXによるIRRが16%であれば、4%の超過収益を実現したということになります。
A氏:PEのパフォーマンスについては、IRRの他に「投資倍率」も表示されていますがこれは何でしょうか?
B氏:IRRは計測期間が1~3年と短い場合や、分配金が早めに入金した場合などでは高めに出る傾向があるので、投資倍率(TVPI:Total Value to paid in capital)も平行して見ることが大切です。投資倍率は簡単に言うと「分配金の受取額累計+投資の残存価値」を投資金額累計(PIC: Paid in capital)で除した数値です。従ってファンドの運用期間が終了した場合の投資倍率は、「分配金の受取額累計/投資金額累計」になります。
C氏:投資倍率は拠出した金額がどのくらい増えたかを示すわかりやすい指標ですが、分配金受け取りの時間差が評価に織り込まれていないので、他のファンドと比較する際にはIRRのほうが適しているかと思います。ざっとしたイメージですが、 IRRで15~20%、投資倍率は1.7~2.0というのが一般的な数値ではないでしょうか。
A氏:なるほどよくわかりました。