上場株よりも重視される PE投資のESG
A氏:PEファンドの説明資料では投資戦略や過去実績、投資事例、GPとのネットワークなどは詳細に記載されていますが、ESGに関する記載はあまり見かけませんね。PE投資ではESGはあまり考慮されていないのですか?
B氏:それは全く違うと思います。ESGは当たり前のものになっているからではないでしょうか? 投資先選定におけるネガティブ・スクリーニングは当然でしょうし、投資の意思決定プロセスにはしっかりESGインテグレーションが組み込まれているはずです。投資先とはESGに関する方針をすり合わせて文書化したうえで、投資実行後はESGに関する改善プランの進捗状況をモニタリングしているはずです。投資先のバリューアップを狙うGPからしたらこれは必然でしょうね。特に欧州系のPEファンドは地域柄かESGに対しても積極的に対応しているようです。
C氏:バイアウト投資の場合は基本的に投資先企業の経営権を握るわけですから、エンゲージメントというよりも自らの手でガバナンスを改善しバリューアップを図ることができます。その意味でESGとの親和性は極めて高いと思います。
VCの場合はマイノリティー出資になりますが、とかく成長重視になりがちなVCの経営者に対し、GPの立場から長期的な企業価値向上を見据えたESGの経営視点を導入支援することができるのではないでしょうか。また、VCは成長と共に投資家から段階的に資金を集めていくわけですが、最近は成長ストーリーだけでなくESGの要素も重要視されてきているようです。
B氏:そうですね、ただVCもアーリーステージだと経営者も成長軌道に乗せるのに精いっぱいで、SやGまではなかなか気配りができないのが現状かもしれません。話は変わりますが、FOFsになると投資先企業に対しては出資が間接的になるので、GPのESGに対する姿勢を評価するという立場になりますね。
C氏:そうです、そこはFOFsからシングルファンドのGPに対するエンゲージメントを行うということでしょうね。FOFsがシングルファンドのアドバイザリー・ボード※6 に参画する場合などは、より発言力がある立場でアドバイスができると思います。また最近はGP自身の投資家からもダイバーシティを含めESGに関してはうるさく言われているという話も聞いています。
A氏:なるほど、PE投資は上場株以上にESG投資の要素が強いようですね。
※6 アドバイザリー・ボード:GPにより大口出資のLPが複数名指名されて構成されるLPの利益代表。ファンドへの出資金額の大きさに加え、GPにとって付加価値の大きい投資家が選定されるのが一般的。GPの投資状況等のモニタリングが主な役割であるが、ファンドの運用に重大な影響を及ぼしうる事項の決議(運用者の交代、利益相反事項の判断等)等も行う。
筆者後書き
これで運用執行理事3氏による井戸端会議は終了です。PEはキャピタルゲインを主体に高いトータルリターンを獲得するという点で、PAの中でも収益ドライバー的な要素が強い資産クラスです。米国では年金や大学等での投資の歴史も長く、これまでに高いリターン実績を示していることからも、PA投資の王道と言っても過言ではないと思います。
一方で、非上場企業への投資ということで流動性が低く個別性が非常に強い投資になりますので、ビンテージ、戦略、マネジャー等の分散が極めて重要となります。これを徹底するためには、長期間安定した資金がそれなりの金額で必要になりますので、日本では従来、PE投資は中規模以上のDBに限定されていた感がありますが、最近は少額でも投資可能なクローズドエンド型のFOFsやオープンエンド型ファンドが登場したことで、PE投資の裾野はこれまでよりも広がっているようです。
また、2021年まで好調なパフォーマンスを示してきたPE投資ですが、2022年に入ってからは株式市場の低迷やボラティリティの高まりを受けてパフォーマンスはやや低迷しており、しばらくは調整局面が続くのではないかと思います。しかし、長期投資のPEはこのような好不調の波に流されず、定期的に投資をしていくのが肝要ということを改めて感じているところです。
PA投資はこれまでに説明した不動産、インフラ、PD、PE以外にも森林農地など多種多様ですが、本企画での資産クラス別解説はこれで終了です。次回は今回の3氏に再度登場いただき、プライベートアセット投資の年金資産運用における将来像なども語っていただき、今回のシリーズの締めくくりにしたいと思います。