finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
AB後藤順一郎のマルチアセット視点

【連載】AB後藤順一郎のマルチアセット視点
ゴールベース資産管理は本当に役に立つのか⁉① 3つの盲点

後藤 順一郎
後藤 順一郎
アライアンス・バーンスタイン AB未来総研所長
2023.12.05
会員限定
【連載】AB後藤順一郎のマルチアセット視点<br />ゴールベース資産管理は本当に役に立つのか⁉① 3つの盲点

政府は2022年11月に資産所得倍増プランを打ち出し、NISAの大幅改革や中立的アドバイスの提供を促すための仕組みの創設などが議論・実施されています。その次のステップとして、どのように資産運用を国民に浸透させていくのかを議論する必要があります。そんな中で注目を浴びつつあるのが、「ゴールベース資産管理」という考え方です。今回から数回に分けて、このゴールベース資産管理のコンセプトやそれを実施する際の留意点などについてお話しします。

ゴールベース資産管理とは

まずは、ゴールベース資産管理がどういうもので、どのような流れで実践するのかをみていきたいと思います。一言でいうと、ゴールベース資産管理というのは、漠然と市場に勝つ運用を目指すのではなく、年金基金や大学の寄贈基金のように、資金特性を踏まえた上で明確な目標を設定し、その実現に向けて資産運用を行う考え方です。

ただ、個人の場合、年金基金のように“将来にわたって給付を確保する”といったシンプルなものではなく、短期のものから長期のものまで様々な目標があるので、何を目標として掲げるかによって実践の仕方は変わってきます。したがって、まずは何のための資金なのかを決めることが最初にやるべきこととなります。そしてそれを決めたら、次に具体的な金額とその達成時期を設定します。その後、それを高い確率で達成できるとみられる資産配分を決めて、そこから具体的な運用戦略・商品を決めるという流れになります。通常の営業プロセスでは商品提案がメインですが、ゴールベース資産管理では商品提案はプロセスの中の一つにすぎないのです。

しかもゴールベース資産管理はここで終わりません。もっと大事なのは、継続的かつ定期的にレビューを行うことです。定期的なレビューは市場に勝っているのか、負けているのかがメインではなく、目標対比で順調に資産が形成できているのかをレビューします。その結果に応じて、今後の積立金額、リターンとリスクなどを調整します。これが典型的なゴールベース資産管理の流れになります。

老後資金の必要額

ここから先は、多くの人のゴールになっている老後資金にフォーカスを当てます。リタイア後の資金を考える時に、最初に考えたいのは、リタイア後の生活水準をどうするかでしょう。高齢になったら特にお金を使わないし、地方であれば生活コストも高くないため、そこまで出費を考えなくても大丈夫ではないかと考える人がいる一方、高齢になってもアクティブに活動したいので、そのための資金を用意しておきたいという考えをお持ちの人もいると思います。

ここではまず、リタイア後にお金をそこまで使わない前提の人たちについて考えてみます。2022年の生命保険文化センターのデータによると、最低限の生活ならば、23.2万円が毎月必要となっていますが、厚生年金の平均給付額が夫婦二人で22.4万円(2023年4月)となっており、足りない分は、たかだか毎月7518円となります。つまり、ほぼ厚生年金でカバーできていることになります。仮にリタイア後の人生を20年とすると180万円くらい必要になると計算され、30年とすると270万円くらいになります。もちろん、今はなかなか貯蓄する余裕がない人にとってみれば、この水準は高額かもしれませんが、長期の資産形成の観点からはそこまで大きな金額ではないと思います。

一方、ゆとりある生活を送りたい場合には、かなり話は変わってきます。同じく2022年のデータによると、ゆとりある生活に必要な金額は月額37.9万円であり、同様に、厚生年金との差を計算すると、毎月15.4万円となります。それをリタイア後が20年だとすると3,708万円、リタイア後が30年だとすると5,563万円と一気にハードルが高くなります。もちろん、富裕層であればこの金額であっても問題ないかもしれませんが、金融機関にとってこれからメインのターゲットになるであろう、いわゆるマス・アフルエントの人たちにとっては、特にリタイア後30年を前提とすると、結構大変な金額だなというのが正直な感想だと思います。老後2000万円問題が数年前に話題となりましたが、それどころではないのです。ここから先はゆとりある生活に焦点を当ててお話します。

資産配分決定までのプロセス

では、この金額を働いている時にどのように準備すればいいのかということですが、皆さんよくご存じのとおり、ソリューションは積立投資だと思います。したがって、ここではどのくらいの積立額が毎月必要になるのかを見てみましょう。運用利回り別、そして積立期間別に積立額をみたところ(図表)、リタイア後30年を前提とした金額、つまり5,563万円を蓄えようと思うと、現役時代に20年間で準備する場合、6%のリターンを見込んでも、毎月12.2万円が必要となるので、とても現実的ではないことが分かります。30年間かけて準備をする場合はそれよりも、低い積立額となりますが、それでも現実的なリターン、つまり3-4%のリターンを前提とすれば、8万円から9.5万円くらいの金額が毎月必要となります。

<図表:毎月の積立必要額>

 

月々の投資としては結構大きい数字だと思いますが、ここでは仮に3%のリターンで積み立てをすると決めたとすると、次はそれをどのような運用で狙っていくのかという話になります。その際、一般的なやり方は、期待リターン、リスク、相関係数の前提を置いたうえで、効率的フロンティアを引いて、その中から自分のリスク許容度に合ったものを選んでいくというやり方だと思います。そして、そのリターンを得るためには、このくらいのリスクテイクが必要という話になります。

もし、そのリスクが高いということであれば、リスクを下げる、つまり積立額を上げることを考える必要がありますし、積立額を上げることができないのであれば、目標額を下げるといった議論をすることになります。最終的には、このような議論を試行錯誤的に行いながら、自分自身にあった資産配分を決めていくことになります。このやり方は極めてシンプルなので、もっと高度なことを実施している人たちもいると思いますが、非常にシンプルであるがゆえに、多くの人に使われているアプローチだと思います。

典型的なアプローチの盲点

しかし、この典型的なアプローチにはいくつかの問題点があると私は考えています。1つ目は、目標額を決める際にインフレが考慮されていない点です。インフレによって、将来用意しなければいけない金額は、名目ベースでもっと高額になるはずですが、それが考慮されていないということです。長い間、デフレが続いていた日本では、インフレについての認識が低いので、見落とされがちなポイントと言えるでしょう。

2つ目は、リタイア後の資産運用の効果が考慮されていない点です。先ほどのリタイア時に必要な金額は、単純に毎月必要な金額に12をかけて年額にして、それに年数をかけて計算しました。つまり、資産運用はしておらず、リターンはゼロという暗黙の前提を置いているわけです。しかし、多くの人が運用を始めている今の時代において、この「運用をしない前提」でいいのかという点です。

最後は、複利効果においてリスクを考慮していない点です。複利効果は一般的にリスクがない前提で計算されていますが、現実にはリスクを伴わずに、相応のリターンを獲得することは難しいでしょう。リスクがあると複利効果はどんどん弱まっていくのですが、これが十分に考慮されていないケースが散見されます。次回は、これらの問題点をじっくり解説したいと思います。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #NISA
  • #金融リテラシー
前の記事
いよいよ債券が戻ってきた!? 押さえるべき3つのポイント
2023.10.12
次の記事
【連載】AB後藤順一郎のマルチアセット視点
ゴールベース資産管理は本当に役に立つのか!?② インフレ、リタイア後運用、複利効果の罠
2024.01.16

この連載の記事一覧

AB後藤順一郎のマルチアセット視点

【連載】AB後藤順一郎のマルチアセット視点
高齢者の居場所は? 改めて見えてきた新NISAの改善点 

2024.03.22

【連載】AB後藤順一郎のマルチアセット視点
ゴールベース資産管理は本当に役に立つのか!?③ 65歳は株式65%債券35%で

2024.02.08

【連載】AB後藤順一郎のマルチアセット視点
ゴールベース資産管理は本当に役に立つのか!?② インフレ、リタイア後運用、複利効果の罠

2024.01.16

【連載】AB後藤順一郎のマルチアセット視点
ゴールベース資産管理は本当に役に立つのか⁉① 3つの盲点

2023.12.05

いよいよ債券が戻ってきた!? 押さえるべき3つのポイント

2023.10.12

ファクターは資産クラスの代替になり得るのか?   
【AB後藤順一郎のマルチアセット視点】

2023.09.06

株式投資はインフレ・ヘッジとして機能するのか?【AB後藤順一郎のマルチアセット視点】

2023.08.18

プライベート・アセットへの配分を増やすべきか?【AB後藤順一郎のマルチアセット視点】

2023.07.10

長期投資に欠かせない「プライベート・アセット」 その利点とリスクは?【AB後藤順一郎のマルチアセット視点】

2023.05.30

おすすめの記事

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
③日本の金融リテラシー向上へ、将来の資産運用を支える人材を育てる

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
②DX・企業価値・サステナ・オルタナの4分野で日本を動かす

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
①国内外の金融50社超が参加!資産運用フォーラムが目指すもの

finasee Pro 編集部

日本初のハンセンテック指数連動ETFが東証上場―注目浴びる“中国テック株”が投資の選択肢に

Finasee編集部

10億円以上の資産家が多いのは山口県、北陸ではNISA活用が進む。県民性から読み解く日本人の投資性向とは?

Finasee編集部

著者情報

後藤 順一郎
ごとう じゅんいちろう
アライアンス・バーンスタイン AB未来総研所長
慶應義塾大学理工学部 非常勤講師、投資信託協会 客員研究員。1997年慶應義塾大学理工学部卒業。富士銀行(現みずほ銀行)に入社し、法人向け融資業務などに従事。2000年からはみずほ総合研究所で、主として企業年金向けの資産運用/年金制度設計コンサルティングに携わる。06年一橋大学大学院国際企業戦略研究科にてMBA取得。同年4月アライアンス・バーンスタインに入社。現在はマルチアセット戦略のプロダクト担当。また、DC・NISAビジネスの推進及びAB未来総研にて顧客向けソリューション/リサーチ業務も兼務している。共著書に『年金基金の資産運用-最新の手法と課題のガイドブック-』(東洋経済新報社)などがある。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
大和証券の売れ筋に見える投資家の力量、パフォーマンスが低迷してもトップ10をキープできるファンドとは? 
金融庁「地域金融力」強調の狙いは地銀再編の再ブーストか?金融審WG初会合の注目点
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
みずほ銀行で一段と盛り上がる「米国株ファンド」、安定感抜群の「ピクテ・プレミアム・アセット・アロケーション」
「分配金」重視姿勢は根強いものの予想分配金提示型でトータルリターンを評価の流れ、野村證券の売れ筋にみる変化
【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
NISAの再拡充で債券ファンド追加案が浮上 金融庁が税制改正要望を公表
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
金融庁「地域金融力」強調の狙いは地銀再編の再ブーストか?金融審WG初会合の注目点
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント
資金流入額は「株式型」への流入増で7カ月ぶりに増額、パフォーマンスは中国A株と「ゴールド」=25年8月投信概況
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(1)インデックスファンドはトラッキングエラーに注目
「分配金」重視姿勢は根強いものの予想分配金提示型でトータルリターンを評価の流れ、野村證券の売れ筋にみる変化
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
松井証券の売れ筋に現れた次代のスター候補銘柄、「オルカン」を大きく上回るパフォーマンスで注目のファンドとは?
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
特別対談/みずほ証券 浜本吉郎代表取締役社長×楽天証券 楠雄治代表取締役社長
提携から3年、価値観の相違に衝突する場面も
顧客が心地よく使えるシームレスなサービスを
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
特別対談/みずほ証券 浜本吉郎代表取締役社長×楽天証券 楠雄治代表取締役社長
提携から3年、価値観の相違に衝突する場面も
顧客が心地よく使えるシームレスなサービスを
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
金融庁「地域金融力」強調の狙いは地銀再編の再ブーストか?金融審WG初会合の注目点
【プロはこう見る!投資信託の動向】
2025年4月の株価急落は変化のトリガー、米国株式への強烈な資金フローの向かう先とは?
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
金融庁の大規模改編案は、下火気味の”プラチナNISA構想”の二の舞になるのか?【オフ座談会vol.7:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態
「支店長! 同行訪問していただく際、緊張してうまく話せなくなってしまいます!」
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら