finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
アクセンチュア式・金融DX人材の取説

アクセンチュア式・金融DX人材の取説② DX人材に必要なスキルとは?(ケイパビリティの可視化)

堆 俊介
堆 俊介
アクセンチュア オペレーションズ コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
深澤 胡桃
深澤 胡桃
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 人材・組織プラクティス マネジャー
2023.07.19
無料

 

 

2-1. 「ハイスペック」の定義が変わってきた

①スキル ②知識 ③経験を豊富に有した人材は、これまでもいわゆる「ハイスペック人材」として重宝されてきた。

しかし「技術の腕」「知識量」「経験年数」といったわかりやすい能力値だけで打開できる仕事は価値が下がってきている。我々がITを使い倒すことで皮肉にも、そうした能力は「ヒトでなくても代替できる」ものになり、今の人材は「ITやロボができることの更に上を行く」思考や着想・行動が求められるようになってきた。

ダボス会議では、定期的に「未来の人材」をうたっているが、これを見るといかに要求水準が高度化し、定量化が難しくなっているか、が一目瞭然だ。

     2022年以降に不要となる能力

      (世界経済フォーラム「仕事の未来レポート2018」より)

      1位 手先の器用さ、持久力、精度

      2位    記憶力、言語能力、聴覚能力、空間能力

      3位    財源の管理

      4位    テクノロジーのインストールとメンテナンス

      5位    リーディング、ライティング、数学、アクティブリスニング

     2025年に必要となる能力

     (「仕事の未来レポート2020」より)

      1位    分析的思考と革新

      2位    アクティブラーニングと戦略的学習力

      3位    複雑な問題解決能力

      4位    批判的思考と分析

      5位    創造性、独創性、イニシアチブ

かつての「ハイスペック人材」でも、「英語は堪能だが、交渉力はイマイチ」や「MBAホルダーだが、経営手腕は頼りない」など、①スキル ②知識 ③経験のピースだけでは十分でないことは薄々感じられていた。加えて時代が変化し、その人ならではの発想や行動が期待されるようになった。それゆえ①~③の価値の比重が低下しており、スペックに拠った人材定義は形骸化している。

 

2-2. ピースの“隙間”にも着目することが第2のカギ

実は、1-3で述べた「ケイパビリティの分解」には続きがある。①スキル ②知識 ③経験に加え、以下のような要素も考慮する必要がある。
④行動:ジョブに必要な考え方・動き方の特性(変えることができるもの)
⑤資質・感性:ジョブに活かせる考え方・動き方の特性(④行動と類似するが、より個人が根本的に保有しており変えづらいもの)

例えば「プロジェクトマネジャー(PM)の認定資格を複数持っており(①スキル②知識)、前職では複数のプロジェクトでPM経験を務めてきた(③経験)」という「知識・スキル・経験」を備えた2名が採用され、プロジェクトリーダに任命されたとしよう。1か月後、1名は「常に顧客志向でサービス品質に高い責任感を持ち、それらを前向きなメッセージに変換して周囲の行動を牽引している(④行動)。また、人の深層心理の把握・理解に長けており、顧客の傾向を捉えたリスク管理やメンバーのモチベーション維持といったチーム構築にも成功している(⑤資質・感性)」。一方、もう1名は「理論・知識に基づいて正確ではあるものの杓子定規な判断や行動が目立つ(④行動)。ぶれない決定基準は持っているが状況に応じた柔軟性に欠ける(⑤資質・感性)ため、非連続な問題が発生する中でプロジェクトは停滞している」

解像度の低い人事や現場の目線で言えば、前者は、いわゆるバランスの取れた優秀層、後者は社内の経営者選抜から漏れていく層といったところだろう。誤解されがちだが、これらもスキル・知識に類する「ケイパビリティ」の一つとして、言語化されるべきである。そして後者が必ずしも劣性というわけではない。適したロールを付与することで成果が変わる要素であり、こうしたピースの隙間ともいえる部分まで精度を上げておけるかどうかで、必要なケイパビリティを持ったより多くの人材を結果につなげることができるのである。

 

2-3. 従業員価値の見落とし

これで今度こそ、完璧なジョブディスクリプションが出来上がるだろうか?ここまでに述べたケイパビリティの構成要素①~⑤は、ある種、“やらされ”人事から脱却するための組織目線の要求事項であった。しかし、これだけで従業員側も変わることができるのだろうか?従業員の意識としては、いつまでも「会社に指示され、都合のいいコマとして扱われる」 受動的な意識から抜け出せず、自立的に成長するプロフェッショナルとはいえないのではないだろうか?

「DX人材育成」に鋭意取り組もうと、スキルや知識のみならず、行動や資質も含むケイパビリティを定義しようとした先進的な企業においてもつまずくポイントがここだ。「従業員にとっての価値が見落とされている」ということである。「ケイパビリティ」の内訳として、最後に1つだけベクトルが異なる要素を取り挙げたい。
⑥アスピレーション(個人の好奇心、志)である。

これは個人が物事に対して本質的な興味・関心を持ち、自ら追求していこうとする行動の源泉を指す。ここが組織の目指す方向性とマッチしていないと、どんなに外から働きかけても従業員は成長せず、いつまでも「やらされ感」で終わってしまう。

これまでのように組織や事業戦略のために会社が従業員を選び、従業員は選ばれることを運に任せる流れを逆転させる必要がある。従業員が自律的なキャリアを形成し、会社が機会を提供する。機会を求める場を提供できない会社は従業員から選ばれなくなるという視点を会社も認識する必要がある。

 

3-1. 双方が納得できる定義をつくる

DX人材の定義では、以下のステップを踏む必要がある。前回は下記の1~4を説明し、今回は下記の5~8までを説明してきた。

  • ①事業戦略・成長戦略の分解
  •    ↓
  • ②人材タイプの定義
  •    ↓
  • ③現状把握、課題分析
  •    ↓
  • ④人材ポートフォリオへの落とし込み
  •    ↓
  • ⑤スキルの定義
  •    ↓
  • ⑥ロールとの紐付け
  •    ↓
  • ⑦レベル、キャリアパスの設計
  •    ↓
  • ⑧従業員価値の定義

 

ポイントは、全ての定義にあらかじめ“従業員にとっての価値”を織り込むことである。例えば、人材タイプをスキル・知識・経験にブレイクダウンする過程であれば、「顧客」である従業員に幅広くヒアリングするなどのマーケティングを行うといったやり方が考えられる。

他にも行動・資質といったソフトを織り込む際には、実際にモデルとなる社員の顔触れを踏まえて議論する、ジョブディスクリプションには人事目線での要求事項のみならず、従業員のキャリアにとってどんな価値・経験をもたらすかまで明文化する、など常に個人のアスピレーションを念頭においた魅力づけを行うことで、従業員自ら成長するための選択やコミットが期待できる。

また、これらの定めた人材要件は後続のすべての人事プロセスに一貫して使われる。その各プロセスも従業員にとってポジティブな体験となるように設計しなおすことが必要である。採用や社内公募の際にはジョブディスクリプションだけでなく、先輩社員の動画を見せて将来のキャリアイメージをもってもらったり、育成においては上司やコーチとの1on1を通じて、自身のこれまでとこれからを棚卸す時間を作ったりする。配置においては自分のキャリアやプライベートな計画を踏まえ、拝命したロールといかに向き合うのかを周囲と共有しておく——など、いずれのイベントにおいても、組織と従業員との双方が共通の言語で語り、従業員の自己実現を組織が手助けすることで成長を促し、組織の成長にもつながる。

上記のアプローチ以外に急速に関心が高まりつつあるのは、AIを活用したスキル診断・管理ツールである。提供サービスは学習データとして社外の同等の人材像がもつスキルを取り込んでおり、自社の人材の労働市場における価値を確認するなどもできるようになってきている。AIの活用については今後取り上げる予定である。

 

3-2. 金融機関B社の例

今回も最後に国内金融機関の実例を見てみよう。この会社ではデジタル・システム分野の大半を外注していたが、内製化に舵を切ろうとしていた。そこで改めて必要な人材の解像度を上げて要件定義に取り組むことにした。

まず人材定義の範囲は「特に内製化すべき領域」であった上流工程と一部の開発領域を中心に絞り込んだうえで、①スキル②知識③経験を定義していった。「テクノロジー」ならば開発管理、アプリケーションエンジニア、ITアーキテクトに分けたうえで、開発標準の定義も活用して客観的に定義し得る事項を盛り込んだ。ただし「細かくし過ぎない」ようにした。区分やスキルを細分化し過ぎても逆に育成現場で持て余してしまい、時代に応じて変わるスキルに追加や修正が追いつかないといったことも懸念された。①~③はあくまでベーシックなものを最低限定義しておくことで、現場に浸透させやすいものとした。

④行動⑤資質・感性⑥アスピレーションは社内で活躍している人材や外注先の人材をベースに実感の湧く定義を徹底した。個別に判断が分かれる部分はその人材タイプの上位者が合議を通じて擦り合わせていくこととした。また社内の人材でキャリア要望が少ないタイプは内製を止めて外部委託で確保することにした。

実際に1on1を行ってみると、各従業員のキャリアイメージは人材タイプや具体的なスキルを特定して目標に設定されることよりも、実際に周囲に存在する優秀な人材に置き換えて「あの人のようになりたい」という反応が多い。過度に作り込んで実態と乖離することなく、組織や市場の期待値を受け入れるバッファを持っていることで、従業員自身が自然に選択し、成長する道しるべとして機能できている。

 

 

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1 2

関連キーワード

  • #フィンテック・DX
  • #人的資本経営
  • #ニュース解説
  • #アクセンチュア
前の記事
アクセンチュア式・金融DX人材の取説① DXはバズワードにあらず。各社で独自の定義を
2023.05.25
次の記事
金融各社の人的資本開示を読む 
社員研修に注力する伊予銀行、従業員エンゲージメントが高い大和証券Gなど
アクセンチュア式・金融DX人材の取説③(臨時特集)
2023.09.13

この連載の記事一覧

アクセンチュア式・金融DX人材の取説

真のDXによる変革の実現に向けて・従業員価値の定義

2024.04.05

DX人材をいかに活用するか?(社内活用、戦略との紐づけ)
「人材がジョブを生む」という逆転の発想

2023.12.07

DX人材をどう育てるか?(育成、認定、評価)

2023.11.07

金融各社の人的資本開示を読む 
社員研修に注力する伊予銀行、従業員エンゲージメントが高い大和証券Gなど
アクセンチュア式・金融DX人材の取説③(臨時特集)

2023.09.13

アクセンチュア式・金融DX人材の取説② DX人材に必要なスキルとは?(ケイパビリティの可視化)

2023.07.19

アクセンチュア式・金融DX人材の取説① DXはバズワードにあらず。各社で独自の定義を

2023.05.25

おすすめの記事

NISAの再拡充で債券ファンド追加案が浮上 金融庁が税制改正要望を公表

川辺 和将

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉓
~米国投資信託最新事情
拡大続く米ETF市場、アクティブETFの本数はついにインデックスETF超え!

藤原 延介

【プロが解説】ピンチはチャンス⁉ トランプ関税を契機にグローバル市場で飛躍する、「したたかな」経営力のある企業に注目

原嶋亮介

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
③日本の金融リテラシー向上へ、将来の資産運用を支える人材を育てる

finasee Pro 編集部

【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態

文月つむぎ

著者情報

堆 俊介
あくつ しゅんすけ
アクセンチュア オペレーションズ コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
人材・組織の専門家として、金融機関を中心に人材戦略、組織設計、人事制度設計、人事業務改革等の深い知見を活かした多数のコンサルティング経験を有する。
この著者の記事一覧はこちら
深澤 胡桃
ふかさわ くるみ
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 人材・組織プラクティス マネジャー
戦略・改革構想に基づく新たな人材要件の定義、育成プログラム、オペレーティングモデルのデザイン・実現まで包括的なHRトランスフォーメーションを専門とする。
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉓
~米国投資信託最新事情
拡大続く米ETF市場、アクティブETFの本数はついにインデックスETF超え!
NISAの再拡充で債券ファンド追加案が浮上 金融庁が税制改正要望を公表
金融庁の大規模改編案は、下火気味の”プラチナNISA構想”の二の舞になるのか?【オフ座談会vol.7:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
「支店長! 同行訪問していただく際、緊張してうまく話せなくなってしまいます!」
【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態
社保審系会合でGPIFが「安定的収益を確保」実績を強調、オルタナティブ+インパクトの強化策に有識者から注文も
2025年NISAアンケート調査の結果から見える地域金融機関の投信販売施策
【プロが解説】ピンチはチャンス⁉ トランプ関税を契機にグローバル市場で飛躍する、「したたかな」経営力のある企業に注目
「支店長! 正直なところ顧客本位と顧客満足の違いが分かりません」
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
金融庁の大規模改編案は、下火気味の”プラチナNISA構想”の二の舞になるのか?【オフ座談会vol.7:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態
資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
①国内外の金融50社超が参加!資産運用フォーラムが目指すもの
社保審系会合でGPIFが「安定的収益を確保」実績を強調、オルタナティブ+インパクトの強化策に有識者から注文も
常陽銀行の売れ筋で期待を高める株式アクティブファンドとは? 売れ筋トップの「日経225」は上放れに安堵
2025年NISAアンケート調査の結果から見える地域金融機関の投信販売施策
「支店長! 同行訪問していただく際、緊張してうまく話せなくなってしまいます!」
資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
②DX・企業価値・サステナ・オルタナの4分野で日本を動かす
滋賀銀行の売れ筋で浮上した「インド株」、過去最高値を更新した日本株の「ダブル・ベア」の行方は?
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
【連載】こたえてください森脇さん
④ネット証券ではなく、自金融機関で投信購入するメリットを説明できない。
FPパートナーへの業務改善命令は"FDレポートの保険版"?金融庁が処分にこめた3つのメッセージ
【文月つむぎ】"フィーベース信仰"に一石? IFA団体が世に問う「顧客本位の新常識」とは
【みさき透】金融庁、FDレポートで外株の回転売買に警鐘 「2、3の事例はアウト」か
DCは本当に「儲からないビジネス」なのか? 業界活性化の糸口はカネではなく「情報」に?
令和のナニワ金融?万博でにぎわう大阪府の金融機関事情
【金融風土記】
「支店長! 同行訪問していただく際、緊張してうまく話せなくなってしまいます!」
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第15回 住宅ローン金利の上昇はどのセクターにどんな効果を及ぼすか
金融庁の大規模改編案は、下火気味の”プラチナNISA構想”の二の舞になるのか?【オフ座談会vol.7:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら