伊藤忠商事、勝利の決め手は非資源分野に

今回のコロナ下では五大商社のいずれもが経営に打撃を受けた。しかし、伊藤忠商事は約半年で株価をコロナ前の水準に戻し、以降も上昇を続けた。他の商社が“もたつく”なか、伊藤忠商事がいち早く回復を果たした理由は、非資源分野のウェイトの高さだと考えられる。

エネルギー資源や金属資源で扱う原油や石炭、レアメタルなどの資源価格は社会情勢の影響を受けやすい傾向にある。一方、食料品や衣類など、普段の暮らしに直接関わる商品が多い非資源分野は、比較的安定した収益が期待できる。両者の違いが、そのまま業績の差となったのではないだろうか。

過去にも、原油価格や資源価格の下落で三菱商事、三井物産が赤字転落した例があった。2014年半ばから新興国経済の減速や、石油抽出の技術革新「シェール革命」による原油供給が増加し、資源価格が大幅に下落。2016年3月期には資源分野の割合が高い三菱商事、三井物産が設立以来初の赤字となった。一方、非資源分野の比重が高い伊藤忠商事は五大商社中、同期の純利益でトップを奪っている。

2021年も同様の事態が起こったと言えるだろう。新型コロナウイルスの影響で世界的にモノやヒトの流れが滞り、燃料の需要が低下。それを受けて原油価格も急落した。原油市場の代表的な指数であり、原油価格の目安となるWTI原油先物価格は、2020年1月頃は1バレル=60ドル前後だったが、同年4月には3分の1の20ドルにまで落ち込んでいる。

三菱商事の純利益が前期比7割減となった要因の一つには、こうした資源価格の暴落もあると言えるだろう。

一方、業績の7割以上を非資源分野に頼る伊藤忠商事は、コロナ下でも純利益の減少を2割に留めている。さらに、コロナ下でのデジタル需要に伴い20年度第1期から情報・金融分野が回復傾向にあった。三菱商事と伊藤忠商事の明暗を分けたのは、成長が期待される分野への先を見据えた投資にもあったのではないだろうか。